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AI導入が進まない理由。部署間の継ぎ目と暗黙知の壁
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AI導入が進まない理由。部署間の継ぎ目と暗黙知の壁

この記事の要点

  • IPAの2026年調査では、AI導入は大企業を中心に拡大した一方、「期待どおりや期待以上の効果の割合は限定的」とされた。課題は導入の有無から効果へ移っている
  • リテラシー不足・費用対効果・セキュリティといった定番の原因論は実在するが、原因を個人と資源に置くため、研修や予算では解けない停滞を説明できない
  • Microsoftの2026年調査では、リーダー層のAI方針が「明確かつ一貫」とした回答は26%。効果を左右するのは個人要因より組織要因という結果もある(ベンダー調査)
  • 導入が止まる場所は、承認と責任分界・部署間の基準の違い・文書化されていない判断基準という、組織の継ぎ目にある
  • 続けるための設計は3つ。本番運用の条件を外さずに小さく始める、判断基準を5項目つきで残す、確認の負荷を絞って社内ルールを整える
  • 判断基準は複数の担当者の間で統合・平均せず、誰の判断かの帰属を保った条件付きルールとして残すのが原則
加藤晃寿郎氏のプロフィール写真

運営者プロフィール

加藤晃寿郎(株式会社taiziii 代表取締役)。慶應義塾大学経済学部出身のエンジニア。在学中のスタートアップ設立、フリーランスを経てシステム開発会社を創業。企業のAI導入支援と、判断継承AIプラットフォーム「SkillRelay」の開発に従事。

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データベースカテゴリ、2025年10月時点

Microsoftが2026年に公開した働き方の調査では、勤務先のリーダー層のAI方針が「明確かつ一貫して整合している」と答えた回答者は26%でした。同じ調査は、AI活用の効果と強く相関するのは個人の要因より組織の要因だという分析も示しています(67%対32%)。効果と結びついているのは組織の側だという結果が出ているのに、その組織の方針が届いていると感じている人は4人に1人にとどまります。10か国2万人を対象にしたベンダー調査である点は差し引く必要がありますが、方針を出すことと現場に届けることが別の仕事だということは読み取れます。

全社で生成AIを契約し、アカウントを配り、リテラシー研修を組む。AI導入を任された担当者にとって自然な進め方で、どれも必要な工程です。それでも使っているのは一部の部署だけで、業務の進め方が変わった実感がない。IPAが2026年に公表した調査(回答企業1,799社)でも、導入は大企業を中心に拡大した一方で「期待どおりや期待以上の効果の割合は限定的」とされています。

出典 Microsoft WorkLab(2026)https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/agents-human-agency-and-the-opportunity-for-every-organization

出典 情報処理推進機構(IPA)「プレス発表 国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公表」2026年7月16日 https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260716.html

この状態を放っておくと、契約とアカウントは維持されたまま、利用が一部の個人に固定します。費用だけが毎月出ていき、社内には「うちの業務にAIは合わない」という評価が残ります。次に別の提案を持ち込むときの説得も難しくなります。

止まっているのは技術でもリテラシーでもありません。業務が人から人へ、部署から部署へ、そして人からAIへ渡る箇所です。この記事では、定番の原因論では説明できない止まり方をまず整理します。そのうえで、承認と責任分界・部署間の基準の違い・文書になっていない判断基準という3つの継ぎ目と、導入を続けるための設計を扱います。

「進まない」という感覚の正体は未導入ではなく効果の頭打ちである

「AI導入が進まない」という言葉には、二つの状態が混ざっています。ツールをまだ導入していない状態と、導入したのに使われず効果につながっていない状態です。公的調査が示すのは、導入自体は広がりつつあるという現在地です。だとすれば、分解すべきは後者、導入したのに進まないという状態のほうです。

導入は拡大したのに期待どおりの効果は限定的である

図解 「進まない」に混ざる二つの状態(分解すべきは導入したのに進まない状態のほう)

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は2026年7月16日、回答企業1,799社の調査(2026年4〜6月実施)の結果をプレス発表しました。AI導入は大企業を中心に拡大し、導入企業には効果の実感がある一方で、「期待どおりや期待以上の効果の割合は限定的」とされています。活用の中心は業務の効率化・迅速化です。

出典 情報処理推進機構(IPA)「プレス発表 国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公表」2026年7月16日 https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260716.html

なお、調査の詳細をまとめた報告書「DX動向2026」は2026年7月30日に公開されています(最終更新2026年8月4日)。DX取組と成果の状況、AI・データ利活用の状況、DX・AIに関する人材の3部構成で、個別の数値はこの報告書で確認できます。

この発表が示すのは、導入していないから進まない、という単純な図式ではありません。導入は済んでいるのに、期待した効果に届かない。「進まない」という感覚の正体は、未導入ではなく効果の頭打ちにあります。活用が効率化・迅速化に集中しているという所見からは、定型作業の支援では成果が出ても、判断が絡む業務へは広がっていない可能性が読み取れます。

方針が現場に届かないのは業務の言葉へ翻訳する工程が抜けているからである

Microsoftが2026年に公開した働き方の調査レポート「Work Trend Index」(10か国・2万人への調査)には、経営と現場のずれを示すデータがあります。リーダー層のAI方針が「明確かつ一貫して整合している」と答えた回答者は26%にとどまりました。同じ調査は、AI活用の効果と強く相関するのは個人の要因より組織の要因だという分析も示しています。比率にして67%対32%と、2倍を超える差です。ここで示されているのは、回答者が自己申告した効果と各要因との相関の強さであり、組織要因が効果を生んだという因果関係が検証されたものではありません。AIを提供する企業自身の調査である点は差し引いて読む必要がありますが、方針の発表と現場への浸透は別の仕事だということを示すデータです。

出典 Microsoft WorkLab(2026)https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/agents-human-agency-and-the-opportunity-for-every-organization

方針がないから進まないのだとすれば、話は簡単です。実際には「AI活用を推進する」という方針を掲げたうえで、現場の業務のどこで、誰の承認のもとで、何を参照して使うのかは決まっていません。方針を業務の言葉に翻訳する工程が抜けたまま、停滞が始まります。

定番の原因論が説明できないのは原因を個人と資源に置いているからである

導入が滞ったときに社内で挙がりやすい原因を、よく取られる打ち手とセットで並べてみます。

よく挙がる原因 よく取られる打ち手 それでも残る問題
使う側のスキル・リテラシー不足 研修・eラーニングの実施 研修後も利用が一部にとどまる。業務のどこで使うかが個人任せのまま
費用対効果が示せない 削減時間の試算 試算の前提が現場の実務と合わず、社内の合意につながらない
セキュリティへの不安 入力制限・利用禁止 制限だけが増え、使ってよい範囲が誰にも分からなくなる
経営層の理解不足・目的の曖昧さ 方針やスローガンの発表 方針が現場の業務の言葉に翻訳されない
データが整っていない 文書のデータ化・基盤整備 文書は集まっても、判断基準が中に入っていない

どの原因も実在しますし、打ち手が無意味なわけでもありません。ただ、この表の左列には共通点があります。原因を個人の能力か、資源の不足に置いている点です。

個人と資源に原因を置く説明では、次のような止まり方を説明できません。

  • 研修を終えた部署なのに、稟議が数か月動かない
  • 部署ごとに使い方がばらばらで、部署をまたぐ業務では誰も使えない
  • AIの回答が一般論ばかりで、現場の担当者が数回試して頼るのをやめる

どれも、個人が学び直せば解ける問題ではなく、予算を積めば解ける問題でもありません。効果を左右するのは個人要因より組織要因だという前章の調査結果とも符合します。原因の置き場所を、個人から組織の構造へ移して見る必要があります。

止まる場所は技術ではなく組織の継ぎ目である

図解 AI導入が止まる3つの組織の継ぎ目(業務が渡る箇所で承認・基準・責任の受け渡しが未整理になる)

この記事で「継ぎ目」と呼ぶのは、業務が渡る箇所のことです。部署から部署へ、人から人へ、そして人からAIへ。仕事が渡るたびに、承認・基準・責任の受け渡しが発生します。AI導入が止まる理由は、現場の反対だけではありません。セキュリティ確認、責任分界、ログ、説明可能性、承認、更新管理、例外時に人へ戻す方法。この受け渡しの取り決めが未整理のまま残っていることが、導入を止めます。継ぎ目は大きく3つに分けられます。

導入を止めるのは反対ではなく確認に答える材料と担当がないことである

現場は試したい、情報システム部門は確認したい、法務も確認したい。誰も反対していないのに、稟議だけが動かない状態です。情報システム部門が確かめたいのは、データの保存場所、入力内容がAIの学習に使われるかどうか、操作ログを取れるかどうかです。法務が確かめたいのは、AIの出力を使った業務で誤りが起きたときに誰が責任を負うか、出力の根拠を説明できるか、つまり説明可能性です。どの確認も業務としては正当で、導入への反対ではありません。

なかでも責任分界は止まりやすい論点です。AIの出力を参考にした業務でミスが起きたとき、責任を負うのは出力を使った担当者か、導入を決めた部門か、利用ルールを整備しなかった管理部門か。取り決めがなければ、どの部門も「進めてよい」とは言えません。反対されて止まるのではなく、誰も止めていないのに進まない。承認の継ぎ目で起きているのはこの状態です。

導入後の更新管理も、承認の段階で問われます。AIサービスは機能やモデルの更新が続きます。導入時に確認した条件がいつまで有効で、変わったときに誰が再確認するのか。この問いに答えられないと、確認する側は承認の判断材料を持てません。導入の承認は一度の許可ではなく、条件が変わったときに誰が確かめ直すかまで含めた取り決めです。情報システム部門と法務が確かめたい項目に、持ち込む側があらかじめ答えを用意しておくと、確認部門とのやり取りは前へ進みやすくなります。

AIを挟むとどちらの基準を参照させるかを先に決める必要が生まれる

値引き対応の下書きをAIに作らせる場面を考えます。営業部門は受注の確度を優先し、経理部門は利益率と回収リスクを優先します。人どうしで仕事を回している間は、この食い違いはその場のやり取りで吸収されてきました。AIを挟むと、どちらの基準を参照させるかを先に決める必要が生まれます。決めないまま導入すると、部署単位では便利に使えても、部署をまたぐ業務ではAIの出力がどちらの基準ともずれ、結局それぞれの部署が従来のやり方に戻ります。

導入を全社に広げる段階では、部門間の調整、社内承認、既存システムとの接続、現場への定着が同時に絡みます。顧客情報や取引履歴は基幹システムの中にあり、AIに参照させるには接続と権限の整理が要ります。接続できても、現場の業務手順のどこで使うかが決まらなければ定着しません。担当役員の権限で一気に展開する海外事例をそのまま持ち込むと、この調整の工程が計画から抜け落ち、実行段階で予定どおりに進まなくなります。

部署間で基準が違うこと自体は、悪いことではありません。営業と経理では守るべきものが違う以上、基準が違うのは当然です。問題は、違いが暗黙のまま放置され、AIに渡す段階になってどちらを参照させるか誰も決められないことです。どの条件ならどちらの基準を使うかを書き出せれば、この継ぎ目は通せます。書き方は後半の設計の章で扱います。

AIの回答が一般論になるのは渡す判断基準が文書になっていないからである

AIが参照できるのは、文書やデータの形になっている情報だけです。規程・手順書・FAQのように、正解が決まっていて書き出せる知識(この記事では「管理する知識」と呼びます)は、整備すればAIに渡せます。一方、手順と手順の間には担当者の判断が挟まっています。請求金額が見積とずれたときに進めてよい範囲。検査数値は基準内なのに仕上がりに違和感があるとき、製造ラインを止めるかどうかの見きわめ。クレーム対応で補償をどこまで出すかの線引き。この判断基準は、言葉にされないまま個人の中にあります。哲学者マイケル・ポランニーが「暗黙知」と呼んだ領域で、この記事ではこれを「継承する判断」と呼び、管理する知識と区別します。

判断基準が文書になっていないままAIを導入すると、AIは参照先にある一般的な情報から回答を組み立てるため、出力が一般論になります。現場の担当者は数回試して「自分で判断したほうが早い」と結論づけ、利用をやめます。利用が減れば効果も出ず、「AIは使えない」という評価だけが社内に残ります。導入したのに進まない、という状態の中心にあるのは、技術の性能ではなくこの参照先の欠落です。活用が効率化・迅速化に集中しているというIPAの所見とも矛盾しません。文書になっている定型作業は渡せても、判断が絡む業務は渡す材料がないからです。

同じ業務でも、判断基準は担当者によって違います。複数のベテランの基準を平均して一本のルールにまとめると、誰の判断も再現できない基準ができあがります。集めた基準を残すときは、誰の・どの条件での判断かという帰属を保つのが原則です。

なお、判断基準を書き出そうとしても全部が言葉になるわけではありません。条件と例外が言葉になった範囲から順に残し、言葉にならない部分は例外として人に戻す前提で設計するほうが現実的です。書き出す作業がどこで止まりやすいかは、別記事「暗黙知の形式知化が失敗する理由」で整理しています。

設計し直す対象はツールではなく検証・判断基準・運用の3点である

ツールを選び直しても、研修を足しても、継ぎ目の取り決めは埋まりません。手を入れる先は、検証の進め方、判断基準の残し方、運用と社内ルールの3点です。

小さくするのは対象範囲であって本番の条件ではない

試験導入(PoC)で効果を確かめたのに、本格導入に進めない。この止まり方には構造的な理由があります。試験段階では、承認・責任分界・運用体制といった論点が「試験だから」と一時的に棚上げされます。棚上げされた論点は消えたわけではなく、本格導入の入口で一斉に戻ってきます。効果の検証をどれだけ重ねても、この組織側の論点は一つも片づきません。

小さく始めること自体は有効です。ただし、小さくするのは対象範囲であって、本番の条件ではありません。対象業務を選ぶ目安を挙げます。

  • 誤りが起きても影響が小さく、やり直しがきく業務
  • 判断基準を持っている担当者を特定できる業務
  • 部署をまたがない業務。またぐ場合は、優先する基準を先に決められる業務
  • 効果を測る指標を、削減時間だけでなく業務の言葉で決められる業務

指標については、削減時間の試算だけに寄せないことが要点です。ベテランへの都度確認が減ったか、回答に根拠が添えられているか、例外がきちんと人に戻っているか。業務の実感と結びつく指標を試験の設計に入れておくと、本格導入の合意を取りやすくなります。

あわせて、検証項目に組織側の項目を含めます。出力の精度だけでなく、誰が承認したか、例外のとき誰に戻したか、参照する文書の更新を誰が担ったか。試験の間にこの運用を回しておけば、本格導入で問われる論点に、試験段階の実績で答えられます。

判断基準は本文だけでなく5項目を添えて初めてAIに渡せる

図解 判断基準に添える5項目(基準の本文だけではAIに渡せる形にならない)

継ぎ目を通すための中心の作業が、判断基準の文書化です。ただし基準の本文だけを書き出しても、参照する側は適用してよい範囲も戻し先も分かりません。次の5項目を添えます。

項目 残す内容 導入のどの継ぎ目で効くか
出典 どの資料・どの経験に基づく基準か 説明可能性の確認に答えられる
誰の判断か どの担当者・どの役割の判断か 責任分界と、基準が食い違ったときの確認先が決まる
有効条件 どの業務・どの状況で有効か 部署間の基準の違いを、条件の違いとして整理できる
例外時の戻し先 条件から外れたら誰に戻すか 人の確認を挟む箇所が決まり、承認の設計につながる
更新日と確認者 いつ誰が最後に確かめたか 更新管理の責任が決まり、古い基準の参照を防げる

前章で見た部署間の違いも、この形式なら扱えます。営業の基準と経理の基準を統合して中間の基準を作るのではなく、それぞれの有効条件を明記して並べます。継続取引が見込める顧客には営業側の基準、支払遅延の履歴がある顧客には経理側の基準、のように条件で使い分けられれば、基準の違いは矛盾ではなく守備範囲の違いになります。誰の判断かの帰属を保ったまま、条件付きのルールとして残します。この原則は、複数の担当者から基準を集めるときほど効いてきます。

AIが参照して外さない状態を作るには、判断基準に加えて、どの文書を正本とするか、どこに置くか、誰が更新するかまでそろえる必要があります。文書と基準を組織として運用する考え方は、別記事「生成AI時代のナレッジマネジメント」で整理しています。

人の確認は影響の大きい業務に絞り社内ルールは使ってよい範囲から書く

判断基準の文書化も検証も、現場の時間を使います。導入を続けられるかどうかは、この負担の設計で決まります。まず決めるのは、AIの出力にどこまで人の確認を課すかです。全出力に厳格な確認を課すと、確認作業が新しい負担になり、利用そのものが減ります。影響が大きく取り返しのつきにくい業務に人の確認を集中させ、それ以外は事後に記録で追える状態にします。

人の確認をどこに置くかについては、国の指針にも参照点があります。総務省と経済産業省は2026年3月31日に「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」を公表しました。その10の共通の指針の一つ「公平性」の項目には、「AIに単独で判断させるだけでなく、適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用を検討」という記載があります。このガイドラインは法的義務ではなく、事業者の自主的な取組を支援する指針です。どのタイミングが「適切」かは書かれておらず、業務ごとに決めるのは各社です。前節の「例外時の戻し先」を決める作業は、この検討をそのまま具体化するものといえます。

出典 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」概要(2026)https://www.soumu.go.jp/main_content/001064299.pdf

社内ルールの作り方にも要点があります。禁止事項の一覧から始めると、使ってよい範囲が分からないまま制限だけが積み上がります。先に「この業務のこの工程では使ってよい」という範囲を示し、そのうえで入力してはならない情報と確認の手順を定めます。範囲が明示されれば、現場は迷わず使えて、確認部門は逸脱だけを見ればよくなります。ルール自体にも更新日と責任者を添えます。AIサービスの仕様や機能は更新が続くため、ルールも一度作って終わりにせず、見直しの担当と周期を決めておきます。盛り込む項目とサンプル構成は、別記事「生成AIの社内ルール・ガイドラインの作り方」で扱っています。

よくある質問

AI導入の「失敗」とはどの状態を指すのか

契約の解約だけが失敗ではありません。契約とアカウントは維持されているのに、利用が一部の個人に固定し、業務の進め方が変わっていない。費用だけが出ていくこの状態は、解約されていないだけで失敗に近いものです。IPAの2026年調査が示した「期待どおりや期待以上の効果の割合は限定的」という所見も、課題が導入の有無ではなく効果の水準にあることを示しています。導入の成否は、ツールが稼働しているかではなく、業務のどの作業とどの判断の扱いが変わったかで測るのが実務的です。

リテラシー研修をしても利用が広がらないときに何を見るべきか

研修の追加を検討する前に、視点を個人から組織側の整備へ移し、3点を確かめてみてください。第一に、使ってよい業務と入力してよい情報の範囲が明文化されているか。範囲が曖昧なままでは、入力してよいかの判断がつかず、利用を控える人が出ます。第二に、業務のどの工程で使うかが部署ごとに決まっているか。個人の工夫任せでは、利用はもともと関心の高い層にとどまります。第三に、AIが参照する文書に判断基準が入っているか。参照先が整っていなければ出力は一般論になり、試した人から離れていきます。研修が効きはじめるのは、この3点が整ったあとです。

AIで暗黙知を書き出せば導入は進むのか

書き出す取り組みは前進ですが、書き出しただけで導入が進むわけではありません。暗黙知には言語化しきれない部分が残りますし、書き出した判断基準も、有効条件と例外時の戻し先が添えられていなければ、AIが参照しても業務では使えません。また、複数の担当者から基準を集めたとき、統合して一本にまとめると誰の判断も再現できなくなるため、帰属を保ったまま条件付きで残す必要があります。AIで暗黙知をどこまで書き出せるかは、別記事「暗黙知をAIで形式知化できる範囲」で扱っています。

PoCで効果が出たのに本格導入で止まるのはなぜか

試験導入の環境では、承認・責任分界・ログ・運用体制といった組織側の論点が一時的に免除されているからです。免除は試験の条件であって解決ではないため、本格導入の入口で論点はそのまま戻ってきます。対策は、試験の設計段階から本番の条件を組み込むことです。誰が承認するか、例外のとき誰に戻すか、参照文書の更新を誰が担うかを試験中に運用し、実績として示せれば、本格導入の判断材料になります。

AI導入は組織の継ぎ目を設計し直す仕事である

公的調査が示す現在地は、導入の遅れではなく、導入と効果のずれでした。定番の原因論は個人の能力と資源の不足に原因を置きますが、研修と予算で解けない停滞は、承認と責任分界、部署間の基準の違い、文書になっていない判断基準という組織の継ぎ目で起きています。

続けるための設計は3つです。本番運用の条件を外さずに小さく始める。判断基準を、出典・誰の判断か・有効条件・例外時の戻し先・更新日と確認者を添えて、統合せず帰属を保って残す。人の確認は影響の大きい業務に絞り、使ってよい範囲を先に示すルールを整える。どれもツールの選定より地味な作業ですが、継ぎ目の取り決めが整えば、AIは判断基準を参照しながら業務に組み込めるようになります。そしてこの整備は、AIのためだけのものではありません。承認の所在が明確になり、判断基準が残る組織は、引き継ぎや属人化への備えとしても強くなります。

加藤晃寿郎

この記事の執筆者

加藤晃寿郎

株式会社taiziii 代表取締役 慶應義塾大学で経済学を専攻しながら、エンジニアとして在学中にコスメ系アプリ事業で起業。 上記起業を経て、再度在学中にシステム開発会社を創業。Webのフロント開発からバックエンド開発まで、あらゆるWeb開発、幅広く対応可能なオールラウンダーとして活躍。 大規模開発のためのエンジニアチームを持っているという特性も活かしながら、外部CTOとしても多くの企業の開発課題を解決してきている。 StockSunを含め複数社の事業新規立ち上げ、開発支援を行っており、ビジネス設計を含めた設計及び開発までワンストップで対応している。

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