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属人化は本当に悪なのか。わざと囲い込む人とスペシャリストの違い
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属人化は本当に悪なのか。わざと囲い込む人とスペシャリストの違い

この記事の要点

  • 属人化には業務停滞・品質のばらつき・評価の不公正という実害があり、リスク自体は軽視できない
  • 一方で属人化が最も起きている領域は「専門的な判断基準」で60.3%(属人化した業務があると答えた141名が対象)。属人化の多くは高度な専門性と表裏の関係(株式会社taiziii調べ)
  • スペシャリストと属人化の違いは能力の高さではなく、業務が「引き継げる状態」に置かれているかどうか
  • わざと囲い込む行動は性格の問題ではなく、共有すると評価や雇用で損をする構造への合理的な適応
  • 残す属人と直す属人は「代替不能の成り立ち・判断基準の説明・影響範囲・バックアップ」の4観点で判別できる
  • 専門性は残してよい。切り離すべきは「判断基準の言語化」だけ
加藤晃寿郎氏のプロフィール写真

運営者プロフィール

加藤晃寿郎(株式会社taiziii 代表取締役)。慶應義塾大学経済学部出身のエンジニア。在学中のスタートアップ設立、フリーランスを経てシステム開発会社を創業。企業のAI導入支援と、判断継承AIプラットフォーム「SkillRelay」の開発に従事。

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「属人化をなくそう」と言われて、いちばん困るのは誰でしょうか。答えは、いちばん高度な判断を担ってきた人です。

属人化の解消は、業務改善の定石として扱われます。手順を文書に落とし、担当を分散させ、誰がやっても同じ結果になる状態を目指す。取り組み自体は妥当で、多くの職場が実際に進めてきました。

ただ、標準化の号令を専門判断の領域にそのまま当てると、話が噛み合わなくなります。契約リスクの見極め、税務処理の判断、検査でグレーゾーンに落ちた品の合否判定。この種の業務で全員が同じ判断をできる状態を目指すと、育成の負担が膨らみ、最終判断の責任の所在も曖昧になります。かといって、本人が「経験と勘だから説明できない」と答え、周囲もそこで引き下がれば、判断は検証されないまま退職と同時に失われます。

問うべきは属人化そのものの善悪ではなく、その業務が引き継げる状態に置かれているかどうかです。語りきれない部分が残ることと、どんな条件で何を見て決めているかを説明しないことは、別の話だからです。この記事では、属人化が悪とされる根拠を確認したうえで、メリットが実在する場面、スペシャリストとの線引き、わざと囲い込む人が生まれる構造、残す属人と直す属人の判別基準を順に整理します。

属人化が悪とされる根拠は停滞・品質・評価の3つのリスクにある

属人化が問題視されるのは、放置した場合の実害がはっきりしているためです。代表的なリスクは3つあります。

  • 業務の停滞 担当者の休職・退職と同時に、業務を回せる人がいなくなります。復旧には後任の育成期間がそのままかかります。
  • 品質のばらつきとミスの潜在化 人によって結果が変わるうえ、業務の中身を周囲が検証できないため、ミスが起きても発見が遅れます。
  • 評価の不公正 中身の見えない業務は成果もミスも本人の申告に頼るしかなく、業務量や貢献を公平に評価できません。

リスクの認識は調査にも表れています。当社の調査では、属人化した業務が「ある」と答えた141名に年代を尋ねると、属人化したスキルが集中する年代は50代以上が60.3%を占めました。また、回答者200名のうちベテラン社員の退職を経営リスクと感じる管理職は74.5%にのぼりました。

出典 株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施。年代を尋ねた設問は、属人化した業務が「ある」と回答した141名が対象。経営リスクの設問は200名が対象) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000163598.html

製造業では、より大規模な公的調査があります。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が2018年11月に実施した調査(有効回答5,867社)では、技能継承を重要と感じる企業が94%を占めました。一方で将来の技能継承に不安があるとする企業は8割にのぼり、自社の技能継承の評価は「うまくいっていない」が「うまくいっている」を上回っています。

出典 JILPT「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査」2018年、経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2019年版ものづくり白書」第1部第3章掲載 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2019/

重要だと分かっていても、継承は進んでいません。ここまでが、属人化を悪とする通説の根拠です。ただ、この通説では説明が付かない調査結果があります。当社調査で属人化が最も起きていた領域は、単純作業ではなく専門的な判断基準でした。

属人化のメリットが実在するのは4つの業務の型に限られる

図解 属人化が価値になる4つの業務の型(価値が人に付くかぎり退職と同時に組織から失われる)

属人化を残すことがむしろ合理的に働く業務には、共通の型があります。

業務の型 属人化が価値になる理由
高度な専門判断(法務・経理・品質管理など) グレーゾーンの判断の質が経験量に依存し、規程やマニュアルで代替しにくい
クリエイティブ業務 発想や作風という個人差そのものが成果物の価値になっている
短期・期間限定のプロジェクト 標準化にかける時間と手間を回収する前に業務が終わる
継続的な顧客対応 経緯を熟知した担当者への信頼が取引の土台になっている

属人化が最も起きているのは単純作業ではなく高度な専門判断である

属人化が起きている領域を尋ねた調査(複数回答。管理職200名のうち、属人化した業務が「ある」と答えた141名が対象)で、最多だったのは「専門的な判断基準(法務・経理・品質管理等)」の60.3%でした。以下「社内システムの仕様・運用保守」47.5%、「顧客対応・営業ノウハウ」36.9%と続きます。

出典 株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施。本設問は属人化した業務が「ある」と回答した141名が対象・複数回答) https://taiziii.com/news/zokujinka2/

契約リスクの見極め、税務処理の判断、検査でグレーゾーンに落ちた品の合否判定。こうした業務は、規程を読めば誰でも同じ結論に至るという性質のものではなく、過去の事例と経験の蓄積が判断の質を左右します。組織の中で最も経験のある人に判断が集まるのは、分業の自然な帰結です。

むしろ、全員が同じ水準で判断できる状態を目指すと、育成の負担が膨らむうえ、最終判断の責任の所在も曖昧になりがちです。第一人者に判断を集めることには、判断の質と責任の明確さという実利があります。属人化の最多領域が専門的な判断基準だったという結果は、属人化の多くが手抜きや怠慢から生じているのではないことを示しています。専門性の高い業務ほど、判断は人に付きます。

臨機応変な対応と顧客の信頼は人に付くため退職と同時に失われる

長く担当している人は、顧客の事情、過去の経緯、言葉にされない要望まで踏まえて動けます。顧客の側も、説明を省いて相談できる相手として担当者個人を信頼しています。この信頼は会社と顧客の間ではなく担当者と顧客の間に築かれたもので、引き継ぎ書に書いて渡せる性質のものではありません。

突発的なトラブル対応も同様です。状況が毎回違う業務では、手順書を確認するより経験者が状況を見て動くほうが早く正確な場面があります。臨機応変さとは目の前の状況と過去の経験を照らし合わせて判断する力であり、その経験は本人の中にしかありません。

ただし、これらのメリットには共通の弱点があります。価値が人に付いているかぎり、その人の退職と同時に組織から失われるという点です。メリットが実在することと、失われるに任せてよいことは別の話です。

スペシャリストと属人化を分けるのは引き継げる状態かどうかである

図解 スペシャリストと属人化を分ける観点(区別の基準は業務が引き継げる状態に置かれているかどうか)

能力の高さでは属人化とスペシャリストを区別できない

スペシャリストも属人化も、特定の人に業務や知識が集中している状態を指す点では同じに見えます。それでも、経理の税務判断を一手に担う人をスペシャリストと呼ぶ職場と、属人化と呼ぶ職場があります。分かれ目はどこにあるのでしょうか。

能力の高さでは区別できません。属人化は「業務がその人にしか分からず、引き継げない状態」を指す言葉で、本人の能力が高いか低いかとは関係がないからです。専門性の高い人の業務が属人化していることもあれば、ごく普通の事務作業が属人化していることもあります。区別の基準は、業務が引き継げる状態に置かれているかどうかです。

観点 スペシャリスト 属人化した状態
専門性の高さ 高い 高い場合も低い場合もある
判断基準 問われれば条件と理由を説明できる 本人の中に閉じている
後進の育成 完全な代替は難しくても、周囲の判断水準が上がっていく 後進が育たず、退職と同時に判断力が失われる
不在時の業務 一次対応と相談先の道筋がある 業務が止まるか、本人に連絡が集中する

この違いは、専門性がどんな環境で維持されるかとも関係します。学習理論の研究者エティエンヌ・ウェンガー=トレイナーらは、同じ実践に携わる人たちが交流しながら学び合う集まりを「実践共同体」と呼びました。そして組織の知識は、こうした共同体の集まりの中に存在すると整理しています。

出典 Etienne Wenger-Trayner・Beverly Wenger-Trayner「Introduction to communities of practice」2015年 https://www.wenger-trayner.com/introduction-to-communities-of-practice/

この整理に従えば、専門性は本人の頭の中だけで完結するものではなく、同業者と議論し、説明し、問われる場の中で維持されるものです。説明する相手がいる専門性は、言語化と検証が自然に進みます。反対に、誰にも問われない状態が続けば、判断の中身は言葉にならないままで、質を確かめる機会もありません。

「長年の勘」と言われても判断の条件と着眼点までは聞き出せる

表の4つの観点のうち中心に置くべきは、判断基準を説明できるかどうかです。ここで返ってくるのが「経験と勘だから、言葉にはできない」という反論です。

この反論には、研究の側から答えがあります。1980年代後半に自然主義的意思決定(NDM)と呼ばれる研究の流れが立ち上がり、心理学者ゲイリー・クラインはその担い手の一人となりました。消防士・軍の指揮官・看護師・パイロットといった熟練者が現場でどう判断しているかを、聞き取りと観察で調べる研究です。クライン自身の整理によると、NDMの研究は2つのことを明らかにしました。第一に、熟練者は複数の選択肢を並べて比較していません。経験から得たパターン認識で状況を捉え、選んだ手がうまくいくかを頭の中で思い描いて確かめています。第二に、専門性は規則や手順の学習よりも暗黙知に依存しています。

出典 Gary Klein「The Naturalistic Decision Making Approach」Psychology Today、2016年2月1日 https://www.psychologytoday.com/us/blog/seeing-what-others-dont/201602/the-naturalistic-decision-making-approach (本人執筆の一般向けコラム)

NDMの知見は、いずれも熟練者への聞き取りから取り出されたものです。本人にとって無意識の判断でも、どんな場面で何に着目し、どんな違和感で異常に気づいたのかは、問いかけしだいで言葉になります。クラインらは、それを実際に聞き取りで取り出してきました。

もちろん、適用の範囲には限界があります。とっさの身体感覚や微妙な手加減のように、言葉にしきれない部分は残ります。NDMの知見は、熟練の判断をすべて言語化できるという主張ではありません。実際にあった事例をたどりながら、何に気づき、どの選択肢を検討し、どこで決めたのかを掘り下げていく面接技法は、CDM(クリティカル・ディシジョン・メソッド)として1989年に体系化されています。判断の条件と着眼点までなら聞き出して残せる、と考えてよいでしょう。

出典 Klein, Calderwood & MacGregor「Critical decision method for eliciting knowledge」IEEE Transactions on Systems, Man, and Cybernetics, 19(3), 1989, pp.462-472 https://doi.org/10.1109/21.31053

だからこそ、判断基準の説明に対する態度が、スペシャリストと囲い込みを分けます。問われれば条件と理由を説明する人の専門性は、周囲の判断水準を引き上げながら本人の中でも磨かれます。「経験だから」と説明を避け続ける専門性は、検証されないまま本人の退職と共に消えます。

わざと囲い込む人が生まれるのは共有すると損をする構造に原因がある

図解 共有すると損をする評価設計の構造(囲い込みは性格でなく損得の構造への合理的な適応)

教える手間は本人が負い成果は組織が受け取る

マニュアルを作らない、聞かれても要点をぼかす、後任の育成に協力しない。こうした囲い込みを前にすると、本人の性格や誠実さの問題に見えます。しかし原因を個人の資質に置くと、対策は本人への注意か配置換えで終わり、しばらくすると別の担当者が同じ行動を取りがちです。囲い込みが繰り返される職場でまず疑うべきは、囲い込むほうが得になる損得の構造です。

囲い込みが得になる仕組みは単純です。教えれば教えるほど「その人でなければならない理由」は薄れ、負担した時間だけが本人に残ります。担当業務の成果だけで評価が決まり、知識や判断基準を組織に渡したことが評価に反映されない職場では、共有は本人にとって持ち出しにしかなりません。

ミスの扱いも同じ向きに働きます。業務の中身が本人にしか分からなければ、小さなミスは表面化しません。共有して業務が見えるようになれば、ミスも、ほかの人との仕事ぶりの比較も表に出ます。仕事ぶりが見えて評価が上がる人もいれば、失うもののほうが大きい人もいます。失うほうに立つ人にとって、囲い込みは不合理な行動ではなく、いまの評価設計への合理的な適応です。

対策の順序もここから決まります。第一歩は本人への説得ではなく、損得の向きを変えることです。判断基準の言語化や後進の育成を評価項目に加え、教えた側に評価が返る設計にする。共有が損にならない状態を作って初めて、共有を求める言葉が届きます。

雇用不安が囲い込みを合理的な選択にする

評価と並ぶもう一つの構造要因は、雇用への不安です。当社の調査では、ベテラン社員の退職を経営リスクと感じる管理職は74.5%にのぼりました。

出典 株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000163598.html

経営側が退職をリスクと呼ぶ状況を、働く側は反対から見ています。辞められたら困ると思われていることは、配置転換や人員整理の場面で自分を守る材料になります。「自分にしかできない仕事」を手放すことは、身を守る材料を手放すことでもあります。人員削減や急な配置換えを見てきた職場ほど、代替可能になることへの不安は現実味を持ちます。

この不安が残っているかぎり、組織のために共有してほしいという正論は届きません。必要なのは、共有した後も役割と処遇が守られる見通しを先に示すことです。判断基準を言語化した人が、後進の育成やより難度の高い業務を担う。囲い込みで守るより、共有して次の役割に進むほうが得だという道筋が見えて初めて、囲い込みを続ける理由がなくなります。

付け加えると、囲い込みは本人を守るようでいて、本人に負荷を返す行動でもあります。代替者のいない業務は休みが取りにくく、問い合わせと確認の連絡が本人に集中し続けます。休暇中も判断を求められ、体調を崩しても業務を止められない状態は、囲い込んだ本人が最初に引き受けることになります。

評価と雇用の構造に手を付けないまま、マニュアル整備やツール導入だけで属人化を解消しようとすると、しばらく経って元に戻りがちです。

残す属人と直す属人は4つの観点で判別できる

判別の軸は成り立ち・説明・影響範囲・バックアップである

実務で必要なのは、すべてを標準化することでも、すべてを放置することでもなく、属人化した業務を一件ずつ仕分けることです。判別の観点は4つあります。

観点 残してよいサイン 見直すべきサイン
代替不能の成り立ち 専門性を深めた結果として人に付いている 情報を渡さないことで代替不能が保たれている
判断基準の説明 問われれば条件と理由を説明する 説明を避ける。質問がはぐらかされる
影響の範囲 影響がその業務の中で完結している 不在時に他部署や他業務まで停滞する
バックアップ 一次対応と相談経路が決まっている 不在時の対応経路がなく、連絡が本人に集中する

第一の観点は、代替不能がどう成り立ったかです。専門性を深めた結果として誰も追いつけないのか、情報を渡さないことで代替不能が維持されているのか。前者は専門性であり、後者は囲い込みです。

第二は、判断基準を説明する意思です。いま言語化されているかどうかよりも、問われたときに説明するかどうかを見ます。説明する意思がある業務は、時間をかけて引き継げる状態に近づけられます。

第三は、影響の範囲です。その人が不在のとき、影響がその業務の中で収まるのか、承認や判断を待つ他部署の業務まで連鎖して止まるのか。波及が大きい業務ほど、対処の優先度は上がります。

第四は、バックアップの有無です。完全な代替者を育てる必要はありません。不在時の一次対応と、判断に迷ったときの相談経路が決まっているだけでも、停滞のリスクは大きく下がります。

4観点は、1つでも該当したら解消、という使い方をするものではありません。見直すべきサインに該当する数が多い業務ほど、退職や異動で失うものが大きい業務です。該当の多い業務から順に、判断基準の言語化に着手します。

残す場合も判断基準の言語化だけは担当から切り離す

残すと決めた業務でも、担当の継続と判断基準の記録は分けて扱います。担当は本人のままでよく、専門性も本人が深め続けてよい。切り離すのは、どんな条件で、何を見て、どう決めているかという判断基準の言語化だけです。

マニュアルやOJTが無駄だという話ではありません。当社の調査でも、マニュアル作成やOJTといった従来の対策を暗黙知の継承に有効とする回答は84.4%にのぼります。一方で同じ調査の総括は、既存のマニュアル作成やOJTでは暗黙知の継承に限界がある、と整理しています。

出典 株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施。本設問は属人化した業務が「ある」と回答した141名が対象・複数回答) https://taiziii.com/news/zokujinka2/

手順のマニュアル化と判断基準の言語化は、似ているようで別の作業です。前者が渡すのは何をするかであり、後者が残すのはどう決めるかです。手順のマニュアルが整っている業務でも、判断基準が残っていなければ、後任は最初の例外で手が止まります。

言語化にあたっての原則を一つだけ挙げると、判断を統合しないことです。同じ業務でも、担当者によって判断が分かれる場合があります。そのとき、複数の判断を平均して一本のルールにまとめてはいけません。条件が違えば適切な判断も違うためです。誰の、どの条件での判断かという帰属を保ったまま条件付きで残し、例外は例外として分けて書きます。聞き方の入口は、抽象的な心構えではなく具体的な案件です。直近で迷った案件を1件挙げてもらい、そのとき何を見て、どの条件でどちらに倒したのかを一つずつ確かめると、条件と対応の組み合わせが言葉になります。

よくある質問

スペシャリストと属人化の違いを一言でいうと何か

スペシャリストと属人化を分けるのは、業務が引き継げる状態に置かれているかどうかです。専門性の高さでは区別できません。判断基準が問われれば説明され、後進が育ち、不在時の対応経路がある状態がスペシャリストで、業務が本人の中に閉じ、不在と同時に止まる状態が属人化です。同じ人でも、判断基準の言語化に取り組むかどうかで、どちらにもなりえます。

わざと属人化させている社員にはどう対応すればよいのか

囲い込みをする本人への注意や説得から入る対応は、長続きしにくいものです。囲い込みは多くの場合、共有すると評価や雇用で損をする構造への適応だからです。先に整えるべきは2つあります。判断基準の言語化や後進育成を評価項目に加えて教えた側に評価が返るようにすることと、共有した後の役割と処遇の見通しを示すことです。損得の向きが変わってから、個別の業務の言語化を依頼します。

属人化にはどんなメリットがあるのか

属人化のメリットとして代表的なのは、高度な専門判断の質と速さ、状況に応じた臨機応変な対応、顧客との信頼関係です。管理職200名への調査でも、属人化した業務が「ある」と答えた141名に領域を尋ねた設問の最多は「専門的な判断基準(法務・経理・品質管理等)」の60.3%で、属人化の多くは専門性と表裏の関係にあります。

出典 株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000163598.html

ただし、判断基準の言語化とバックアップがない場合、これらの価値は担当者の退職と同時に失われます。

属人化はすべて解消すべきなのか

属人化のすべてを解消する必要はありません。専門性の結果として人に付いている業務、標準化のコストが見合わない短期業務、個人の発想が価値になるクリエイティブ業務は、属人のまま残す判断がありえます。ただし残す場合も、切り離して整えるのは判断基準の言語化と不在時の一次対応の2つです。この2つがあれば、残した属人が退職と同時に損失へ変わる事態を避けられます。

悪いのは専門性ではなく引き継げないまま放置される状態である

属人化のリスクは実在します。停滞・品質・評価の3つの実害があり、製造業5,867社が回答した調査では、技能継承を重要とする企業が94%を占める一方で、うまくいっていないという自己評価が上回っていました。

同時に、属人化のメリットも実在します。属人化の最多領域は専門的な判断基準であり、属人化の多くは高度な専門性と表裏です。だから問うべきは属人化そのものの善悪ではなく、その業務が引き継げる状態に置かれているかどうかです。判断基準を説明し後進が育つ状態がスペシャリストであり、判断が本人の中に閉じたまま放置された状態が、直すべき属人化です。わざと囲い込む人が生まれる職場では、個人を責める前に、共有すると損をする評価と雇用の構造を変える必要があります。

残す属人と直す属人は、代替不能の成り立ち・判断基準の説明・影響範囲・バックアップの4観点で判別できます。そして残す場合も、判断基準の言語化だけは切り離す。悪いのは専門性ではなく、代替不能なまま放置される状態です。

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加藤晃寿郎

この記事の執筆者

加藤晃寿郎

株式会社taiziii 代表取締役 慶應義塾大学で経済学を専攻しながら、エンジニアとして在学中にコスメ系アプリ事業で起業。 上記起業を経て、再度在学中にシステム開発会社を創業。Webのフロント開発からバックエンド開発まで、あらゆるWeb開発、幅広く対応可能なオールラウンダーとして活躍。 大規模開発のためのエンジニアチームを持っているという特性も活かしながら、外部CTOとしても多くの企業の開発課題を解決してきている。 StockSunを含め複数社の事業新規立ち上げ、開発支援を行っており、ビジネス設計を含めた設計及び開発までワンストップで対応している。

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