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業務の属人化を防ぐ仕組みづくり。営業・経理・情シスの職種別対策
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業務の属人化を防ぐ仕組みづくり。営業・経理・情シスの職種別対策

この記事の要点

  • スキル継承対策の最多はマニュアル・手順書の作成(52.5%)だが、組織的な仕組みで暗黙知を残している企業は16.5%にとどまる(株式会社taiziii調べ)
  • 属人化は起きてから解消するより、生まれる前に防ぐほうが手間も期間も小さい
  • 予防の柱は「担当の複線化」「業務の中で書く文書化」「例外時の判断の言語化」の3つ
  • 引き継ぎで不足した観点の最多は「例外発生時の判断の基準」(40.5%)。手順のマニュアル化だけでは防げない
  • 営業は顧客との関係、経理は例外処理、情シスは担当者しか触れないシステムに属人化が集中しやすい
  • 職種を問わず使える予防チェックリスト10項目を本文に掲載。ツール導入は先頭に置かない
加藤晃寿郎氏のプロフィール写真

運営者プロフィール

加藤晃寿郎(株式会社taiziii 代表取締役)。慶應義塾大学経済学部出身のエンジニア。在学中のスタートアップ設立、フリーランスを経てシステム開発会社を創業。企業のAI導入支援と、判断継承AIプラットフォーム「SkillRelay」の開発に従事。

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「あの件は担当の人に聞かないと分かりません」。「担当が休みなので、来週まで待ってもらえますか」。職場でこういうやり取りが続いていないでしょうか。業務の属人化とは、業務の進め方や判断基準が特定の個人に依存し、その人がいないと業務が滞る状態です。

対処として真っ先に選ばれるのは、手順を書き出すことです。当社が管理職(課長以上)200名に行った「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」でも、スキル継承の対策で最も多いのはマニュアル・手順書の作成(52.5%・複数回答)でした(あてはまる対策がないという回答も20.0%あります)。書かれていないから聞きに来るのだ、という見立ては自然ですし、手順の抜けは実際にこれで埋まります。

ところが、確認は特定の人に集まり続けます。当社が管理職200名に行った業務引き継ぎに関する実態調査で引き継ぎの際に不足していた観点を聞くと、最多は「イレギュラーな状況や例外発生時の判断の基準」(40.5%)でした。ベテランの判断の観点や業務の勘所を言語化・記録する組織的な仕組みがある企業は16.5%にとどまり、46.5%は組織的な取り組みに至っていません。手順書が揃っても、例外が出るたびに同じ担当者へ確認が回ります。その人が休んだ日には処理が止まり、異動や退職が決まって初めて、代われる人がいないことがはっきりします。

不足しているのは手順書の枚数ではありません。例外に出くわしたときに何を見て、どちらを選ぶかという判断のほうです。しかも、いったん一人に集まった判断を後から分け直す作業は、集まる前に分散させておく作業よりも重くなります。この記事では、属人化が生まれる前に打てる3つの仕組みを示したうえで、営業・経理・情報システム部門(情シス)の職種別に、属人化が起きやすい場所と対策を整理します。後半には職種を問わず使える予防チェックリスト10項目を掲載しました。すでに属人化が進んでいる業務への向き合い方は、終章で扱います。

出典 40.5%・16.5%・46.5%は株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・本調査2026年2月24日〜3月6日/追加調査2026年3月16日) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/ (公開ページは調査の概要とダウンロード案内で、設問ごとの数値は同ページで配布のレポートに掲載)

出典 52.5%・20.0%は株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000163598.html

属人化は解消するより生まれる前に防ぐほうが易しい

図解 技能継承の先送りで問題は当時より拡大(対処を延ばしている間に問題は小さくなるどころか広がった)

属人化対策と聞くと、まず業務を棚卸しして可視化する、という解消の手順を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。すでに起きた属人化の解消はもちろん必要です。ただ、進んだ属人化を文書と体制に置き換える作業は、生まれる前に防ぐことに比べて格段に重くなります。

進んだ属人化の解消には本人の協力と長い時間が要る

属人化した業務を解消するには、担当者本人に業務と判断を説明してもらい、それを文書や研修に変換し、別の人が実際に遂行できるまで確認する必要があります。ところが担当者は多くの場合、その業務を抱えているために最も忙しい人でもあります。説明の時間が取れない。長年の判断が本人にとって当たり前になっていて、言葉にしにくい。聞き出せたとしても、内容を検証できる人が社内にいない。この三つが重なるため、解消はなかなか進みません。

先送りした場合に何が起きるかは、製造業の数字に表れています。製造業では、団塊の世代が60歳の定年を迎え始めた2007年、技能や技術をどう継承するかが「2007年問題」と呼ばれ注目されました。当時は製造業の事業所の51.6%が「技能継承に問題がある」と答えています(産業計32.7%)。その後、雇用延長により問題は一旦回避されましたが、解消したわけではありません。その後「技能継承に問題がある」事業所は2007年当時を上回り、2018年度調査では産業別で製造業が86.5%と最も高くなっていました。対処を延ばしている間に、問題は小さくなるどころか当時より広がりました。

出典 経済産業省ほか『2019年版ものづくり白書』(データは厚生労働省「能力開発基本調査」)・2019年 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2019/

一方、属人化が生まれる前であれば、打ち手は「一つの業務を一人に集中させない」「記録を業務の中に組み込む」という日常の運用の話で済みます。特別なプロジェクトを立ち上げる必要はありません。

予防が進まないのは多忙と言語化の難しさに原因がある

予防のほうが軽いと言っても、放っておいて実現するわけではありません。「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」でスキル継承の最大の障壁を聞くと、最多は「日々の業務が多忙で優先度が低い」(29.5%)で、「暗黙知の言語化・形式知化が難しい」(25.0%)が続きます。有効なツールや手法がないことを挙げた人は8.0%でした。障壁の中心は手段の不足ではなく、時間が確保されないことと、言語化そのものの難しさにあります。

出典 株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000163598.html

この2つの障壁は、そのまま予防策の設計条件になります。多忙が最大の障壁である以上、「落ち着いたらまとめて文書化する」という後回し型の計画は実行されません。言語化が難しい以上、「各自でノウハウを書いておくように」という指示だけでも進みません。予防の仕組みは、この2つの条件を満たす形、つまり日常業務の中で回る形にしておく必要があります。

属人化が生まれる前に打てる仕組みは3つある

図解 属人化が生まれる前に打つ3つの仕組み(個人の心がけでなく組織の仕組みとして設計する)

米国議会の監査機関であるGAO(米国会計検査院)は2002年、NASAの教訓共有の仕組みを検証した報告書を出しています。そこでは、知識共有に成功している組織の共通点として次の4つが挙げられました。

  • 経営層のコミットメント
  • 実装のための明確なビジネスプラン
  • 共有を促すインセンティブ
  • 情報アクセスを支える技術システム

個人の心がけは、どこにも出てきません。属人化の予防も同じで、担当者の善意や努力に頼らず、組織の仕組みとして設計する必要があります。

出典 米国会計検査院(GAO)「NASA: Better Mechanisms Needed for Sharing Lessons Learned」(GAO-02-195)・2002年 https://www.gao.gov/products/gao-02-195

属人化が生まれる前に打てる仕組みは、次の3つに整理できます。

仕組み 内容 防げる状態
担当の複線化 一つの業務をできる人を二人以上にする 業務が一人に集中し、その人しかできなくなる
文書化の習慣 業務が終わってからではなく、業務の中で書く 記録が残らないまま経験が個人にだけ蓄積する
判断の言語化 手順に加えて、例外時の判断基準を残す 手順書はあるのに例外対応が特定の人に依存する

仕組み1 担当の複線化でできる人を二人以上にする

予防の第一の仕組みは、できる人が一人しかいない業務を作らないことです。具体的には、業務ごとに主担当と副担当を置き、副担当が定期的に実務を経験する機会を設けます。副担当に求める水準は、主担当と同じ熟練度ではありません。手順どおりに業務を実行でき、どこで判断に迷うかを知っている水準であれば、不在時に業務は止まらなくなります。

複線化は人員に余裕のある大企業だけの話ではなく、形は職場に合わせて選べます。

  • 主担当の休暇時に、副担当が実務を代行する日をあらかじめ設ける
  • 四半期に一度など目安を決めて、担当業務の一部を入れ替える
  • 月次・年次の業務は、実施のたびに担当役と確認役を交代する

あわせて、業務と担当者の対応を一覧にした表を作り、できる人が一人しかいない業務を特定します。組織のメンバーが「誰が何を知っているか」を互いに把握し合う状態は、心理学者ダニエル・ウェグナーらが提唱したトランザクティブ・メモリー・システムという概念で研究されてきました。誰が何に詳しいかを組織が把握していないと、特定の担当者への依存は、本人が退職や休職で不在になり業務が止まって初めて表面化します。一覧表は、その依存を業務が止まる前に見つけるための手段です。

出典 Kotlarsky・van den Hooff・Houtman「Are We on the Same Page? Knowledge Boundaries and Transactive Memory System Development in Cross-functional Teams」2015年(Aston University公開版) https://publications.aston.ac.uk/id/eprint/20114/

仕組み2 文書化は業務が終わってからではなく業務の中で行う

第二の仕組みは、書くタイミングを業務の後ではなく業務の中に置くことです。スキル継承の最大の障壁は多忙でした。業務が一段落してからまとめて書く計画は、多忙な職場では最初に削られます。そこで、業務の遂行そのものに記録が含まれる形へ変えます。

  • 同僚からの質問にチャットで答えたら、その回答を所定の保存場所に転記する
  • 例外的な対応をしたら、できれば当日のうちに「状況・対応・理由」を数行で残す
  • 新任者から受けた質問と答えを、そのままマニュアルの追記に使う

いずれも、すでに発生している説明や対応を記録に変換するだけで、新しい作業をほとんど増やしません。文書を完成品と考えないことも大切です。最初から網羅的なマニュアルを目指すと着手が重くなります。数行のメモの蓄積から始め、問い合わせや例外が発生するたびに厚くしていく前提にすると、多忙な職場でも続けられます。

仕組み3 判断を言語化しないと手順書があっても例外に対応できない

第三の仕組みは、文書化の中身に関わります。「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」では、スキル継承対策の最多はマニュアル・手順書の作成(52.5%)でした。一方、業務引き継ぎに関する実態調査(前掲)で引き継ぎの際に不足していた観点を聞くと、最多は「イレギュラーな状況や例外発生時の判断の基準」(40.5%)です。マニュアルは作られていても、書かれているのは手順であり、例外にどう対処するかの基準は抜けています。この食い違いを放置したままマニュアル整備を続けても、例外対応は特定の人に依存し続けます。

出典 52.5%は株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000163598.html

出典 40.5%は株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・本調査2026年2月24日〜3月6日/追加調査2026年3月16日) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/

判断基準を残すには、手順書とは別の書き方が必要です。「どの条件のときに、どちらを選ぶか」を条件と対応のセットで書きます。例えば「納期と品質検査が両立しない場合、受注金額が一定額を超える案件なら検査を優先し、顧客に納期の相談をする」のように、判断の分かれ目になる条件を明示します。手順書の各項目に「考え方」の欄を設けると、手順と判断を対応させたまま残せます。マニュアルを厚くする話に聞こえるかもしれませんが、増やすのは説明の分量ではなく、選択が分かれる条件の記述です。

注意したいのは、複数のベテランの判断を一本のルールに統合しないことです。同じ場面でも、Aさんは納期を優先し、Bさんは品質を優先することがあります。2人の基準を平均した中間のルールを作ると、どちらの判断も再現できなくなります。誰の・どの条件での判断かという帰属を保ったまま、条件付きのルールとして別々に残し、例外は本則と分けて書きます。判断を引き出す問いの立て方は、別記事「判断基準の作り方」で扱っています。

属人化が起きやすい場所は職種ごとに違う

図解 営業・経理・情シスの属人化と予防の要点(起きやすい場所は職種ごとに違うため対策も職種別に具体化する)

「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」では、属人化した業務が「ある」と答えた管理職が70.5%(200名中141名)にのぼりました。この141名に領域を尋ねると(複数回答)、最多は法務・経理・品質管理などの「専門的な判断基準」(60.3%)でした。「社内システムの仕様・運用保守」(47.5%)、「顧客対応・営業のノウハウ」(36.9%)が続きます。上位に並んだ領域を職種に置き換えると、経理などの管理部門、情シス、営業になります。属人化はどの職種でも起きますが、起きやすい場所は職種ごとに違うため、対策も職種ごとに具体化したほうが動きやすくなります。

出典 株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施。70.5%は200名が対象。領域の設問は、属人化した業務が「ある」と回答した141名が対象・複数回答) https://taiziii.com/news/zokujinka1/https://taiziii.com/news/zokujinka2/

職種 属人化が起きやすい場所 予防の要点
営業 顧客ごとの経緯・キーパーソン・交渉の落としどころ 重要顧客の2名体制。商談記録に「次の一手とその理由」を書く
経理 例外処理の判断・月次決算の勘所 例外対応のたびに条件と処理を記録し、着眼点をチェックリストに書き加える
情シス 担当者しか仕様を知らないシステム・障害対応 システムと担当の棚卸し。変更と障害対応の記録を義務化する

営業 顧客との関係と商談の判断が担当者個人にだけ残る

営業の属人化は、顧客ごとの情報と商談の判断が担当者個人の中にだけ残ることで進みます。顧客とのこれまでの経緯、先方のキーパーソン、価格交渉の落としどころ、提案を出すタイミングの見極めは、放っておけば商談を重ねた本人にしか分からなくなります。担当者が退職すると、顧客との関係を実質的に最初から作り直すことになりかねません。

予防は、3つの仕組みを営業の形に置き換えて設計します。

  • 複線化。重要顧客は主担当と副担当の2名体制にし、目安として年に数回は定例の打ち合わせに副担当や上司が同席する
  • 文書化。商談記録に、起きた事実だけでなく「次に何をするか、なぜそうするか」を書く欄を設ける
  • 判断の言語化。値引きの可否、提案を見送る条件、失注時の引き際といった判断の分かれ目を、条件付きで残す

商談記録が「訪問した」「見積を出した」という事実の羅列になっている場合、その記録から担当者の判断は読み取れません。次の一手とその理由が書かれて初めて、別の担当者がその商談を引き継げます。

経理 例外処理と月次の勘所は個人の経験に頼りやすい

経理は定型業務の標準化が進んでいる職種です。それでいて、同調査で属人化の領域の最多に挙がった「専門的な判断基準」(141名中60.3%)が集まりやすい職種でもあります。日常の仕訳や支払処理はマニュアル化されていても、イレギュラーな請求への対応や、科目・期ズレの判断は個人の経験に頼りがちです。月次決算でどこを見て異常に気づくかという勘所も、長く担当した人の中だけに残ります。例外処理は発生頻度が低いためマニュアルに書かれにくく、書かれないまま担当者の経験だけが積み上がっていきます。

予防の要点は、例外が発生した場面を記録の機会に変えることです。

  • 例外的な処理をしたら、できれば当日のうちに「状況・判断・根拠」を数行で記録し、例外対応集として蓄積する
  • 月次決算のチェックリストに、作業手順だけでなく「この数字がいつもと違ったら何を疑うか」という着眼点を書き加える
  • 決算や税務など特定の人に固定されやすい業務には、確認役やレビュー役として第二の担当者を関与させる

経理の例外には年に数回しか起きないものも多く、引き継ぎ期間中に同じ事象が再現されることは期待できません。発生のたびに残した記録の蓄積が、そのまま将来の引き継ぎ資料になります。

情シス 担当者しか触れないシステムが残り続ける

情シスの属人化は、担当者しか触れないシステムという形で現れます。同調査でも、属人化の領域として「社内システムの仕様・運用保守」を141名中47.5%が挙げており、専門的な判断基準に次ぐ2番目でした。数年前に内製されたツールや、特定の担当者が組んだマクロ・自動処理は、動いているから触らないまま時間が過ぎがちです。ドキュメントのない古い基幹システムも同じで、仕様を知る人が退職した時点で保守も改修もできなくなります。

  • 棚卸し。社内のシステム・ツール・自動処理の一覧を作り、担当者、仕様書の有無、保存場所を記録する。仕様を知る人が一人しかいないシステムを特定する
  • 記録。設定変更や改修は、変更内容と理由を必ず残す運用にする
  • 判断の言語化。障害対応のたびに「どのログを見て、何を疑い、どの順で切り分けたか」を事後に短く記録する

障害対応は情シスの判断がいちばん表れる場面ですが、復旧してしまうと記録されないまま終わりがちです。対応直後に例えば15分ほどの振り返りを入れて切り分けの判断を残すと、同種の障害への対応が特定の個人に依存しにくくなります。

属人化の予防チェックリスト10項目はツール導入から始めない

3つの仕組みと職種別の対策を、日々の運用で確認できる形に落としたのが次の10項目です。最初に確認するのはどの業務が一人に依存しているかの把握で、ツール導入の確認は8番目にあります。業務改善の調査・会員組織であるAPQC(米国生産性品質センター)は、ナレッジマネジメントの戦略枠組みで、技術投資は戦略と設計の判断に従うべきだとしています。日々生まれる知識のすべてが重要ではない以上、事業にとって重要な知識領域の特定が先だという整理です。何を残すか、誰が担うかが決まる前にツール選定から始めると、導入すること自体が目的になりやすくなります。

出典 APQC「Knowledge Management Strategic Framework」 https://www.apqc.org/expertise/knowledge-management/interactive-km-framework

No. チェック項目 確認の観点
1 業務と担当者の一覧があり、できる人が一人しかいない業務を特定している 業務×担当の表。休暇や急な不在で止まった業務も書き加える
2 対策する業務を「止まったときの影響」で優先順位付けしている 売上・決算・顧客・安全への影響が大きい業務から着手する
3 優先業務に主担当と副担当を置いている 副担当は「手順を実行でき、迷う場所を知っている」水準でよい
4 担当の入れ替えや代行の機会を定期的に設けている 四半期に一度など目安を決める。主担当の休暇日を代行日に使う
5 文書化が業務の中に組み込まれている 質問への回答・例外対応・新任者とのやり取りを記録に転記する運用があるか
6 マニュアルに例外時の判断基準が書かれている 「どの条件でどちらを選ぶか」の記載。手順だけなら未完と見なす
7 複数の担当者の判断を一本に統合していない 誰の・どの条件での判断か、帰属を保って別々に残しているか
8 ツール導入が対策の先頭に来ていない 何を・誰が残すかが決まる前に、ツール選定から始めていないか
9 記録・共有の時間が業務時間として確保されている 担当者の善意や残業に依存していないか
10 記録が定期的に見直され、更新されている 作って終わりでなく、例外や質問のたびに追記されているか

9番と10番は、仕組みを続けるための項目です。スキル継承の最大の障壁は多忙(29.5%)でした。記録の時間が業務として確保されていなければ、どれほど良い様式やツールを用意しても5番と6番は実行されません。また、国際規格のISO 30401:2018は、ナレッジマネジメントを一度きりの施策として扱っていません。確立・維持・レビュー・改善を繰り返すマネジメントシステムとして定めています。このチェックリストも、半年に一度など目安を決めて見直し、形骸化した項目を入れ替えながら使ってください。

出典 ISO「ISO 30401:2018 Knowledge management systems — Requirements」・2018年 https://www.iso.org/standard/68683.html

すでに進んでいる属人化には予防とは別の考え方が要る

ここまでの仕組みは、属人化が生まれる前に打つものです。一方で、読みながら自社の特定の業務と担当者を思い浮かべた方も多いかもしれません。「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」でも70.5%の管理職が属人化した業務があると答えており、予防だけで完結する職場のほうが少数です。進んでしまった属人化の解消には、予防とは違う手順が必要になります。

  • すべてを一度に解消しようとせず、止まったときの影響が大きい業務に絞る
  • 解消は担当者本人の協力なしに進まないため、言語化にかかる負担を評価や業務量の調整で正当に扱う
  • 解消を進めながら、新しい業務では予防の仕組みを同時に動かし、属人化した業務をこれ以上増やさない

担当者の異動や退職がすでに決まっている場合は、予防でも解消でもなく、引き継ぎの実務が必要になります。限られた期間で渡すものを選ぶときも、手順の網羅より例外時の判断を先に置くほうが、後任が止まる場面を減らせます。引き継ぎの進め方と完了の基準は、別記事「業務引き継ぎのやり方とチェックリスト」でまとめています。

よくある質問

属人化を防ぐには何から始めればよいか

属人化の予防は、業務と担当者の一覧を作り、できる人が一人しかいない業務を特定することから始めます。対象が見えていない段階でマニュアル作成やツール導入から始めると、重要度の低い業務の文書化に時間を使ってしまうことがあります。一覧ができたら、止まったときの影響が大きい業務から、副担当の設置と例外時の判断基準の記録に進みます。

マニュアルを作れば属人化は防げるのか

マニュアルは手順の属人化を防ぐうえでは有効ですが、それだけでは足りません。株式会社taiziiiの業務引き継ぎに関する実態調査(前掲)では、引き継ぎで不足していた観点の最多は例外発生時の判断の基準(40.5%)でした(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査)。手順どおりに進まない場面で誰も判断できなければ、業務は結局元の担当者に戻ってきます。マニュアルには手順に加えて、どの条件でどちらを選ぶかという判断基準の記載が必要です。

属人化の防止にツールの導入は必要か

ツールは記録と共有を支える手段として役立ちますが、最初に打つ手ではありません。「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」では、スキル継承の最大の障壁として有効なツールや手法がないことを挙げた人は8.0%にとどまりました。上位は多忙(29.5%)と言語化の難しさ(25.0%)です。何を残すか、誰がいつ書くか、時間をどう確保するかを決めてから、それに合うツールを選ぶ順番が実務的です。

出典 株式会社taiziii「企業の属人化・技術承継に関する実態調査」(管理職(課長以上)200名・インターネット調査・2025年8月14日〜18日実施) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000163598.html

少人数の職場でも担当の複線化はできるのか

専任の副担当を置けない職場でも、水準を下げた複線化は可能です。副担当に求めるのは主担当と同じ熟練度ではなく、手順を実行でき、どこで判断に迷うかを知っている状態です。主担当の休暇日をあらかじめ代行日として設定する、月次業務の担当役と確認役を交代で担う、記録の保存場所だけは全員が知っている状態を保つなど、人数を増やさずにできる形から始められます。

属人化は起きてから解消するより起きる前に防ぐほうが軽い

属人化は、起きてから解消するより起きる前に防ぐほうが、かかる手間も期間も小さく済みます。予防の仕組みは、担当の複線化、業務の中で書く文書化、例外時の判断の言語化の3つです。営業なら顧客との関係と商談の判断、経理なら例外処理と月次の勘所、情シスなら担当者しか触れないシステムというように、職種ごとに起きやすい場所へこの仕組みを当てはめていきます。

業務引き継ぎに関する実態調査(前掲)では、組織的な仕組みで暗黙知を残している企業は16.5%にとどまりました。一方で、引き継ぎの際に不足した観点の最多は例外時の判断の基準です(株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」・従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査)。マニュアルを作ることと、判断を残すことは別の作業です。予防チェックリスト10項目を手元の業務に当てはめて、できる人が一人しかいない業務の特定から始めてみてください。

加藤晃寿郎

この記事の執筆者

加藤晃寿郎

株式会社taiziii 代表取締役 慶應義塾大学で経済学を専攻しながら、エンジニアとして在学中にコスメ系アプリ事業で起業。 上記起業を経て、再度在学中にシステム開発会社を創業。Webのフロント開発からバックエンド開発まで、あらゆるWeb開発、幅広く対応可能なオールラウンダーとして活躍。 大規模開発のためのエンジニアチームを持っているという特性も活かしながら、外部CTOとしても多くの企業の開発課題を解決してきている。 StockSunを含め複数社の事業新規立ち上げ、開発支援を行っており、ビジネス設計を含めた設計及び開発までワンストップで対応している。

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