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引き継ぎを受ける側がつらいのはなぜか。ぐちゃぐちゃな引き継ぎから立て直す方法
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引き継ぎを受ける側がつらいのはなぜか。ぐちゃぐちゃな引き継ぎから立て直す方法

この記事の要点

  • 引き継ぎを受ける側がつらくなる主因は、前任者の判断基準が資料に残っていないこと。受ける側の能力の問題ではない
  • 管理職の69.5%に引き継ぎを受けた経験があり、暗黙知や判断基準が「十分に共有された」引き継ぎは19.5%のみ(株式会社taiziii調べ)
  • 立て直しは「業務の洗い出し→手順と判断基準を分けて空欄を埋める→例外を記録して自分のマニュアルに育てる」の3段階
  • 前任者・上司への質問は、背景・着眼点・さじ加減・例外時の線引きの4観点で組み立てると判断基準を引き出しやすい
  • 質問と回答のログと「教わっていないこと」リストを日付つきで残すことが、受ける側の身を守る記録になる
  • 資料の受け渡しが終わっても、判断は継承されていない。空欄を埋める工程までを引き継ぎと考えると立て直しやすい
加藤晃寿郎氏のプロフィール写真

運営者プロフィール

加藤晃寿郎(株式会社taiziii 代表取締役)。慶應義塾大学経済学部出身のエンジニア。在学中のスタートアップ設立、フリーランスを経てシステム開発会社を創業。企業のAI導入支援と、判断継承AIプラットフォーム「SkillRelay」の開発に従事。

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データベースカテゴリ、2025年10月時点

引き継ぎで、マニュアル化されていない業務の背景や判断基準が「十分に共有され、自分一人で応用的な判断ができるようになった」と答えた管理職は19.5%でした。一方、「これは教えておいてほしかった」と感じた観点があったと答えた人は88.5%です。当社が従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職(課長職以上)200名に聞いた結果で、うち69.5%が実際に引き継ぎを受けた経験を持つ人たちです。

資料は受け取り、説明も聞いています。それでも業務が回らないと、受ける側は自分の理解が遅いせいではないかと考えたくなります。そして資料を読み込む時間を増やしたり、聞くのを控えて自分で調べたりして、なんとか追いつこうとします。

読み込む時間を増やしても、例外が起きるたびに手は止まります。特定の取引先だけ締め日が違うといったローカルルールは、ミスや手戻りが起きてから存在を知ることになります。前任者に聞こうにも、すでに異動先の業務に入っているか、退職して連絡手段がありません。当社調査でも、判断基準が引き継がれなかった影響として都度確認が必要になった(31.5%)が最多で、何らかの影響があった人は84.5%にのぼりました。

問われているのは、受ける側の理解の速さではありません。引き継ぎ資料に載るのは作業の手順で、なぜその順番なのか、どの条件で例外扱いにするのかという判断の基準は、前任者本人も普段は意識していないため書かれないまま残ります。つらさの主因は渡され方の側にあり、立て直しも渡され方の側から手をつけられます。受ける側がつらくなる構造、立て直す3段階、判断基準を引き出す質問リスト、自分の身を守る記録術の順に扱います。

出典 株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・本調査2026年2月24日〜3月6日/追加調査2026年3月16日) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/ (公開ページは調査の概要とダウンロード案内で、設問ごとの数値は同ページで配布のレポートに掲載)

※この記事で引用する当社調査の数値は、断りのない限りすべて同調査によります。

引き継ぎを受ける側がつらいのは判断基準が渡っていないことに原因がある

引き継ぎのつらさは人によって場面が違うように見えますが、当社調査で困りごとを聞くと、回答は特定の項目に集中しました。最多は暗黙知が共有されなかったこと(39.5%・複数回答)で、業務の全体像がつかめなかった(38.0%)、資料が古い・不十分だった(34.0%)、前任者に頼らないと分からない業務が残った(28.5%)が続きます。

前任者の判断基準が資料に残っていない

困りごとの最多が暗黙知の未共有(39.5%)だったのは、資料の量が足りないからではありません。引き継ぎ資料の中心は作業の手順です。どの画面で何を入力するか、いつ誰に何を送るかは読めば分かります。読んでも分からないのは、なぜその順番なのか、どんな条件がそろったら例外扱いにするのか、金額や納期をどこまで譲ってよいのかという判断の基準です。追加調査(2026年3月16日実施・200名)でも、「手順(やり方)中心の説明で、背景や判断基準はほとんど共有されなかった」と答えた人が15.0%いました。教えておいてほしかった観点が何かしらあった人は、88.5%(177名)にのぼります。

判断基準が資料に残らないのは、前任者が出し惜しみをしているからとは限りません。長く担当した業務ほど判断は意識されなくなり、書き出そうとしても本人が思い出せないためです。資料は手順に偏ります。判断基準は前任者の頭の中に残ったままなので、本人が異動や退職でいなくなると、職場からは失われます。

資料が古い・不十分だった(34.0%)という困りごとも、書かれていないことに突き当たる点では同じです。手順や組織が変わっても資料は更新されず、どこが現行でどこが古いのか、受ける側には見分けがつきません。資料が更新されないまま放置される背景は、別記事「使われないマニュアルが生まれる理由」で扱っています。

出典 株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・本調査2026年2月24日〜3月6日/追加調査2026年3月16日) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/

質問できる相手がいないうえ期間も足りない

当社調査では、引き継ぎにかけた期間は1ヶ月未満が75.0%を占め、1週間未満だけでも20.5%ありました。一方、後任が前任者と同等のパフォーマンスを発揮できるまでに3ヶ月以上かかった、またはまだ至っていないという回答は合計58.0%です。両者は別々の設問への回答であり、同じ回答者を追跡した数字ではありません。それでも並べて見ると、引き継ぎが形式のうえで終わる時期と受ける側が一人で回せるようになる時期のあいだには、数ヶ月の開きがあります。期間の設定と実態の差については、別記事「退職・異動の引き継ぎ期間の目安」で扱っています。

引き継ぎが終わってから一人で回せるようになるまでの数ヶ月に、例外や判断に迷う場面が次々に出てきます。ところが引き継ぎ期間はすでに終わり、前任者は異動先の業務に入っているか、退職して連絡手段がありません。困りごとの上位に入った「前任者に頼らないと分からない業務が残った」(28.5%)は、前任者がいなくなってから実際の支障になります。質問できる相手を失った状態で例外に直面することが、受ける側のつらさの二つめの場面です。

出典 株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・2026年2〜3月実施) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/

ローカルルールは例外が起きるまで存在すら分からない

三つめの場面は、資料にも説明にもなかった決まりごとが、例外対応のたびに後から現れることです。追加調査で、判断基準や勘所が引き継がれなかったことによる業務への影響を聞きました。最多は、自己判断ができず前任者や上司に都度確認する必要があった(31.5%)です。拠点や担当者によるローカルルールの存在に後から気づき混乱した(26.0%)、前任者と同等の品質やスピードで業務を遂行できなかった(24.0%)が続き、何らかの影響があった人は84.5%にのぼります。

ローカルルールは通常の業務では表に出ません。特定の取引先だけ締め日が違う、特定の拠点だけ承認の経路が違うといった決まりは、その場面が来て初めて存在が分かります。受ける側は知らなかったこと自体を防げないのに、発覚するのはたいていミスや手戻りが起きた後です。防ぎようのないつまずきなのに、結果だけを見れば受ける側の確認不足に見えてしまいます。

出典 株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・本調査2026年2月24日〜3月6日/追加調査2026年3月16日) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/

つらさの正体は個人の能力不足ではなく構造の問題

図解 受ける側を支えるはずの3層が機能していない(どれも受ける側の努力で変えられる範囲の外にある)

ここまでの3つの場面を、受ける側の努力で防げたかどうか考えてみます。判断基準はそもそも資料に書かれておらず、聞ける期間は75.0%が1ヶ月未満で終わり、ローカルルールは例外が起きるまで存在すら分かりません。どれも受ける側の準備や注意力の外側で起きています。受ける側を支えるはずの資料・上司・組織の仕組みについても、当社調査には次の数字があります。

  • 既存の業務マニュアル・手順書が「十分に整備されていなかった」 74.0%
  • 引き継ぎに上司がほとんど・全く関与していなかった 22.0%(約5人に1人)
  • ベテランの判断の観点や勘所を言語化・記録する組織的な仕組みがある 16.5%のみ

資料、上司、組織の仕組みのどれもが受ける側を十分に支えていない状態で、それでも業務は初日から回さなければなりません。引き継ぎがうまくいかないとき、最初に疑うべきは受ける側の能力ではなく、資料・上司・仕組みのどこが欠けているかです。原因が受ける側の外にあるなら、打ち手も外から取れます。空欄を埋める順番、聞く相手と聞き方、記録の残し方は、受ける側が自分で決められます。

出典 株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・本調査2026年2月24日〜3月6日/追加調査2026年3月16日) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/

ぐちゃぐちゃな引き継ぎから立て直す3段階

図解 ぐちゃぐちゃな引き継ぎを立て直す3段階(頻度と影響の2軸で優先順位を付けて埋めていく)

ぐちゃぐちゃな引き継ぎとは、具体的には「資料が古い」「全体像が見えない」「質問先がない」の3つが重なった状態です。この状態からの立て直しは、資料を頭から書き直すことではありません。まず全体像を取り戻し、次に空欄の種類を仕分け、最後に日々の例外を自分の記録に変えていきます。

第1段階 業務の洗い出しで全体像を描き直す

最初にやるのは、資料の読み込みではなく担当業務の一覧づくりです。全体像がつかめないという困りごと(38.0%)は、個々の手順をいくら覚えても解消しません。前任者の資料、過去1年分のカレンダーと会議の予定、前任者宛て・前任者発のメール、共有フォルダのファイルを手がかりに、この担当が受け持つ業務を書き出します。毎週の定例業務だけでなく、月次・年次・不定期の業務まで含めます。渡す側から見た洗い出しと完了確認の進め方は、別記事「業務引き継ぎのやり方とチェックリスト」にまとめています。

一覧には「業務名・頻度・関係者・自分がどこまで分かっているか」の4点を添えます。分からない業務は、空欄のまま一覧に並べて構いません。何が分かっていないかが見えた時点で、漠然とした不安は具体的な確認事項に変わります。

書き出したら、発生頻度と止まったときの影響の2軸で優先順位をつけます。すべてを同時に立て直そうとすると、重要な業務の確認が後回しになります。頻度が高く影響が大きい業務から埋めていき、まれにしか起きず影響も小さい業務は「発生したら調べる」と割り切って構いません。

第2段階 手順と判断基準を分けて空欄を埋める

優先順位の高い業務から、空欄を「手順が分からない」と「判断基準が分からない」に仕分けます。この2つは埋め方が違うためです。手順の空欄は、資料の該当箇所を探す、実際に一度やってみる、システムの操作履歴を確認するといった方法で自力でも埋まります。判断基準の空欄は資料に書かれていないので、読んでも埋まりません。人に聞くしかない空欄です。

仕分けの目安は「初めての場面でも迷わず動けるか」です。手順どおりに進めば終わる業務は、手順の空欄だけを含みます。相手や条件によって対応を変える業務、過去に例外が起きたことのある業務は、判断基準の空欄を含む業務です。判断基準の空欄には、次の章の質問リストを使い、優先的に聞く時間を確保します。前任者がまだ在籍しているなら、この仕分けだけでも引き継ぎ期間中に終えておくと、聞けなくなってから困る場面を減らせます。

第3段階 例外・イレギュラーを記録して自分のマニュアルに育てる

第2段階までで埋まらなかった空欄は、日々の業務で例外が起きるたびに埋めていきます。例外に直面したら、状況・とった対応・そう判断した理由・確認した相手を、短くてよいので記録します。後から発覚したローカルルールも同じです。どの拠点の、どの場面の決まりなのかを添えて書き残します。

この記録を前任者の資料に追記していくと、資料は少しずつ「前任者の資料」から「自分の資料」に置き換わります。引き継ぎ直後は例外のたびに手が止まりますが、記録を続ければ同じ例外で二度は止まりません。立て直しの完了は、資料がきれいに整った日ではなく、例外が起きても自分の記録の中に手がかりが見つかるようになった時点です。記録のつけ方は、後半の「自分の身を守る記録術」の章で詳しく扱います。

前任者・上司への質問は調査で挙がった4つの観点で組み立てる

何を聞けば判断基準が出てくるかは、当社調査の結果がそのまま設計図になります。追加調査で、引き継ぎの際に「これは教えておいてほしかった」と感じた判断の観点や業務の勘所を聞くと、上位は次の4項目でした(複数回答)。

教えておいてほしかった観点 回答率
イレギュラーな状況や例外発生時の「判断の基準」 40.5%
その作業がなぜ必要なのかという「業務の背景や目的」 38.5%
ベテランがどこを見て、何をきっかけに判断しているかという「着眼点」 37.5%
ルールが明確でないグレーゾーンでの「さじ加減」や「落としどころ」 34.5%

出典 株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・本調査2026年2月24日〜3月6日/追加調査2026年3月16日) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/

先に引き継ぎを受けた管理職200名が「聞いておけばよかった」と答えた項目は、これから受ける人にとって、聞くべき項目の一覧でもあります。

前任者がいるうちに聞くべきなのは手順ではなく判断基準である

図解 判断基準は過去の事例を起点に聞く(平均して一本にせず誰のどの条件での判断かを保つ)

手順は資料と実践で後からも追えますが、判断基準は前任者が在籍しているあいだにしか聞けません。限られた時間は、手順の確認よりも判断基準の質問に優先して充てます。調査の4項目を聞ける形に置き換えると、次のようになります。

観点 聞き方の例 引き出したいもの
業務の背景・目的 「この業務の結果は誰が何に使っていますか」「仮にやめたら何が起きますか」 手を抜けない箇所と簡略化できる箇所の区別
着眼点 「この業務で最初にどこを見ますか」「異変に気づいたとき、何がどうなっていましたか」 前任者が確認している対象と順番
さじ加減・落としどころ 「過去に対応が分かれた事例はありますか」「どこまで自分で決めてよく、どこからは確認が必要ですか」 グレーゾーンでの裁量の範囲
例外時の線引き 「どんな条件がそろったら例外扱いにしますか」「例外のとき、最初に誰へ連絡しましたか」 通常と例外の境界と、迷ったときの連絡先

「判断基準を教えてください」と抽象的に聞いても、前任者は答えられません。判断は本人にとって意識されていないためです。「先月の返品対応では、なぜあの処理を選んだのですか」「別の選択肢はなかったのですか」のように、過去の具体的な事例を出発点にすると、条件と判断の対応が言葉になりやすくなります。

複数の人から話を聞くときには注意点があります。同じ業務でも、判断の分かれ目は人それぞれです。聞いた内容を平均してひとつのルールにまとめると、誰の判断も再現できない中間的な基準が残ってしまいます。「Aさんはこの条件なら先方に確認する」「Bさんは同じ条件でも自分で処理して備考に残す」のように、誰の・どの条件での判断かが分かる形のまま記録します。

前任者がいなくても判断基準は業務の周囲に分散して残っている

前任者が退職済み、または多忙で時間を取れない場合は、聞き先を一人に求めず分散させます。判断基準の持ち主は前任者だけではなく、周囲の人がそれぞれ一部分ずつ持っているためです。

聞き先 聞けること
上司 業務の目的と優先順位。自分がどこまで決めてよいかの範囲
前任者の元同僚・隣の席の担当者 日常の運用、ローカルルール、過去の例外対応の経緯
成果物を受け取る関係部署・取引先 何がいつ、どの形式・品質で必要か。過去に困った納品
過去のメール・議事録・共有フォルダ 例外時のやり取りの記録。判断の理由が書かれた往復
同種の業務を担当する他部署の担当者 標準的な進め方と、自部署のやり方の差分

とくに有効なのは、成果物を受け取る側への確認です。受け取る側は何が正しいアウトプットかを具体的に知っており、過去のトラブルも覚えています。前任者がいなくても、業務のゴール側から判断基準を組み立て直せます。退職した前任者への連絡は、原則として期待しない前提です。

キャパオーバーはがんばりの問題ではなく構造として報告する

引き継ぎ直後の業務量は、同じ業務を前任者がこなしていたときより実際に多くなります。1件ごとに調べ直す時間、都度確認の時間、ミスや手戻りのやり直しが、通常の作業時間に上乗せされるためです。この状態を放置してキャパオーバーに達する前に、上司へ報告します。

当社調査では、引き継ぎに上司がほとんど・全く関与していなかったケースが22.0%ありました。上司は引き継ぎの中身を知らない可能性がある前提で、状況が伝わる言い方を選びます。がんばりや慣れの問題として伝えると、能力の問題として受け取られて終わりがちです。

能力の問題に聞こえる言い方 構造が伝わる言い方
「業務が多くて回りません」 「引き継ぎ資料に載っていない業務が発生し続けていて、1件ごとに調べ直す時間がかかっています」
「まだ慣れていなくて時間がかかります」 「例外時の判断基準が引き継がれていないため、その都度確認が必要になっています」
「何とかします」 「AとBが重なった場合にどちらを優先すべきか、判断の基準を確認させてください」

報告には3点を入れます。事実(資料にない業務や例外が、いつ・どのくらい発生したか)、影響(納期の遅れやミスのリスクがどこに出るか)、依頼(優先順位の判断・確認先の指定・期限の調整)です。事実の部分は、次の章で扱う記録がそのまま根拠になります。当社調査でも、会社に求めるサポートとして引き継ぎ期間の十分な確保(53.5%)や上司による進捗管理(27.0%)が上位に挙がっています。上司の関与を求めること自体は、特別な要求ではありません。

出典 株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・2026年2〜3月実施) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/

自分の身を守る記録術は質問ログと「教わっていないこと」リストの2つ

エン・ジャパンが転職サイト『エン転職』の利用者に行ったアンケート(2022年実施・有効回答10,420名)には、後任側の体験談が寄せられています。引き継ぎのドキュメントを渡されたのが前任者の最終出社日で、分からない部分を聞けなかったという内容です。聞く機会のないまま引き継ぎが終わることは、受ける側の努力では防げません。防げない以上、その後に起きることへの備えとして記録を残します。

出典 エン・ジャパン エン転職「退職の進め方」アンケート・2022年 https://employment.en-japan.com/enquete/report-84/

ここでの記録は、前任者や会社への責任追及の材料ではありません。同じ質問を繰り返さないため、教わっていない範囲を見えるようにするため、そして万一ミスの経緯を問われたときに自分の対応を事実で説明するための記録です。

質問と回答のログを日付つきで残すと3つのことができる

質問して得た回答は、その場で理解して終わりにせず、日付つきで書き残します。残す項目は「日付・聞いた相手・質問・回答・関連する資料」の5点で十分です。チャットで聞いた場合はやり取りがそのまま記録になるため、メモに起こすのは口頭で聞いたときだけで済みます。

第一に、同じ質問を二度しなくて済みます。第二に、人によって回答が食い違ったときに気づけます。食い違いは誰かの間違いとは限らず、判断の分かれ目が人によって違うだけの場合もあるため、誰がどう答えたかが残っていれば上司に確認して整理できます。第三に、いつ・何を・誰に確認して動いたかを事実で示せます。後からミスや手順の違いを指摘されても、当時確認したうえでの対応だったと説明できます。口頭で聞いた内容は、書き留めなければ何も残りません。

「教わっていないこと」リストは残った空白を上司と共有するために作る

資料にも説明にもなかった業務やルールが発覚したら、そのたびに「発覚した日付・業務やルールの内容・発覚のきっかけ・その場でどう対応したか」を一覧に足していきます。当社調査では、ローカルルールの存在に後から気づき混乱した人が26.0%いました。後から気づくこと自体は避けられない前提に立ち、気づいた記録を積み上げていきます。

「教わっていないこと」リストの目的は、前任者の落ち度を数えることではありません。担当業務の全体のうち、まだ引き継がれていない範囲がどれくらい残っているかを、自分と上司の双方から見えるようにすることです。資料に載っていない業務がいつ・いくつ発覚したかを事実で示せると、キャパオーバーの相談も責任範囲の確認も、感情の話ではなく業務の話として進められます。

出典 株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・本調査2026年2月24日〜3月6日/追加調査2026年3月16日) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/

記録は次の引き継ぎの資産になる

質問ログと「教わっていないこと」リストは、自分を守るだけの記録ではありません。当社調査では、ベテランの判断の観点や勘所を言語化・記録する組織的な仕組みがある職場は16.5%にとどまります。組織に仕組みがないなら、受ける側が残した記録が、その業務について実際に使える数少ない記録になります。

質問ログは、後任がつまずく箇所の一覧そのものです。次に自分が引き渡す側になったとき、ログにある質問と回答を資料に反映すれば、自分が苦労した空欄を後任に引き継がずに済みます。たまったログや例外の記録をAIに整理させて、業務別・条件別に並べ直し、引き継ぎ資料の下書きにする方法もあります。AIが判断基準を作るのではなく、散らばった記録を人が確認できる形に整理する使い方です。どこまでをAIに任せられるかは、別記事「AIによる業務引き継ぎの範囲」で扱っています。

出典 株式会社taiziii「業務引き継ぎに関する実態調査」(従業員1,000名以上の大企業に勤務する管理職200名・インターネット調査・本調査2026年2月24日〜3月6日/追加調査2026年3月16日) https://taiziii.com/knowledge-transfer-survey-2026/

よくある質問

引き継ぎがぐちゃぐちゃで業務を覚えられないのは受ける側の責任なのか

引き継ぎがうまくいかない責任が受ける側にあるのかというと、当社調査を見る限り、受ける側だけの問題とは言えません。既存の業務マニュアル・手順書が十分に整備されていなかった職場は74.0%、上司が引き継ぎにほとんど・全く関与しなかったケースは22.0%、判断の言語化に組織的な仕組みで取り組んでいる職場は16.5%です。資料・上司・仕組みの支えが足りない状態は、受ける側の努力で変えられる範囲の外にあります。責任の所在を心配するより、質問と回答のログや「教わっていないこと」リストを残して、上司と状況の認識を合わせることが実務的な守りになります。

前任者が退職していて質問できないときはどうするか

前任者がすでに退職している場合、本人への連絡は原則期待できないため、聞き先を分散させます。業務の目的と裁量の範囲は上司へ、日常の運用とローカルルールは前任者の元同僚へ、成果物の要件は受け取る関係部署や取引先へ聞きます。過去のメールや議事録も、例外時のやり取りと判断の理由が残っている場合がある情報源です。誰に何を聞いたかをログに残しておくと、同じ質問の繰り返しを避けられます。

キャパオーバーだと感じたら何から手を付けるか

業務量が処理できる範囲を超えていると感じたら、最初にやるのは担当業務の洗い出しと優先順位づけです。全体像がないまま目の前の業務に追われると、重要な業務の遅れに気づけません。次に、資料にない業務の発生状況を記録し、事実・影響・依頼の3点で上司に報告します。業務を減らすか、期限を動かすか、確認先を決めるかの判断は、受ける側が一人で抱え込まずに上司と決めます。当社調査でも、会社に求めるサポートの最多は引き継ぎ期間の十分な確保(53.5%)であり、時間や体制の確保を求めることは正当な要望です。

質問ばかりになってしまうのは理解力が足りないからか

引き継ぎ後に質問が多くなるのは、調査の結果からは標準的な状態だと言えます。判断基準が「十分に共有された」引き継ぎは19.5%にとどまり、88.5%は教えてほしかった観点が残ったまま業務を引き受けています。判断基準が引き継がれなかった場合の影響でも、都度確認が必要になった(31.5%)が最多でした。質問の量を無理に減らすより、同じ質問を繰り返さない工夫が現実的です。質問ログを残す、聞く前にログを見返す、可能なら質問をまとめて聞く時間を設ける。この3つで、聞く側と答える側の負担を同時に減らせます。

引き継ぎは完了しても判断は継承されていない

資料を受け取り、説明を聞き、引き継ぎ期間が終わる。形式のうえでは引き継ぎは完了です。しかし当社調査では、判断基準まで十分に共有された引き継ぎは19.5%にとどまりました。引き継ぎは完了しても、判断は継承されていません。受ける側のつらさは、この差分を一人で埋めさせられることから生まれています。

立て直しの道筋は3段階です。業務を洗い出して全体像を取り戻し、空欄を手順と判断基準に仕分け、日々の例外を記録して自分の資料に育てる。判断基準の空欄は、背景・着眼点・さじ加減・例外時の線引きの4観点で、前任者や業務の周囲にいる人から引き出します。そして質問と回答のログと「教わっていないこと」リストが、キャパオーバーの報告と責任の説明で自分を守り、次の引き継ぎでは後任を守る資産になります。

ぐちゃぐちゃな引き継ぎを受けたこと自体は変えられませんが、立て直しの手順は決まっています。次に例外や不明点に直面したときは、記録を一行残すことから始めてみてください。

加藤晃寿郎

この記事の執筆者

加藤晃寿郎

株式会社taiziii 代表取締役 慶應義塾大学で経済学を専攻しながら、エンジニアとして在学中にコスメ系アプリ事業で起業。 上記起業を経て、再度在学中にシステム開発会社を創業。Webのフロント開発からバックエンド開発まで、あらゆるWeb開発、幅広く対応可能なオールラウンダーとして活躍。 大規模開発のためのエンジニアチームを持っているという特性も活かしながら、外部CTOとしても多くの企業の開発課題を解決してきている。 StockSunを含め複数社の事業新規立ち上げ、開発支援を行っており、ビジネス設計を含めた設計及び開発までワンストップで対応している。

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