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システム開発・AI導入なら株式会社taiziii コラム 生成AIで人は育たなくなるのか。脱スキルの実証研究と防ぐ設計
生成AIで人は育たなくなるのか。脱スキルの実証研究と防ぐ設計
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生成AIで人は育たなくなるのか。脱スキルの実証研究と防ぐ設計

この記事の要点

  • AIを取り上げた後の学習成果まで、AIが原因だったと言える形で測った研究は現時点で数少ない。代表的なのが、参加者をくじ引きで分けて比べたBastaniらの試験(PNAS 2025)
  • その試験では、答えを渡すAIで練習した群はAIを外した試験で一度も使わなかった群より17%低かった。ヒントを出す設計に変えると悪影響はほぼ消えた
  • 批判的思考を調べた研究(Microsoft Research×CMU・Gerlich)は本人の自己評価を尋ねた調査で関係を示したところまでで、「AIで考えなくなる」とは断定できない
  • 思考は消えるのではなく「収集・生成」から「検証・統合」へ性質が移る。検証には照合できる知識と経験が要る
  • 若手が育ちにくくなる主因は能力の低下ではなく、下調べや下書きという経験の入口をAIが先に済ませてしまう構造
  • 防ぐ鍵は利用の禁止ではなく設計。AI側は答えの前に問いと根拠、育成側は検証を仕事にする5つの型
加藤晃寿郎氏のプロフィール写真

運営者プロフィール

加藤晃寿郎(株式会社taiziii 代表取締役)。慶應義塾大学経済学部出身のエンジニア。在学中のスタートアップ設立、フリーランスを経てシステム開発会社を創業。企業のAI導入支援と、判断継承AIプラットフォーム「SkillRelay」の開発に従事。

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データベースカテゴリ、2025年10月時点

「生成AIを使うと人は育たなくなる」。この言い方は、実証研究が示した結果とずれています。AIが原因だったと言えるところまで学習への影響を確かめた研究が示したのは、答えをそのまま渡す設計のAIで練習した人にだけ、成果が本人に残らなかったという結果でした。当たり前のようでいて、AIと人材育成を考えるときにいちばん抜けやすい前提です。

下調べも、議事録も、たたき台も、生成AIが数分で返します。任せられるものを任せて速度を上げるのは、効率化としては正しい判断です。

Bastaniら(PNAS 2025)は、参加者をくじ引きで分けて比べる試験(ランダム化比較試験、RCT)を行いました。答えを返すチャット型で練習した高校生の成績は、練習中は一度もAIを使わなかった群より48%高くなりました。ところがAIを取り上げた最終試験では、一度もAIを使わなかった群より17%低い結果でした。同じことが職場で起きるとすれば、順番はこうなります。若手が下調べや下書きを経験しないまま、AI出力を検証する役割だけを任される。照合できる知識がないので、誤りに気づけない。そしてAIが答えられない例外だけが、人の側に戻ってきます。

問われているのは、AIを使わせるかどうかではありません。どう設計されたAIを、どう使わせるかです。同じ研究で、答えを渡さず段階的なヒントを返す設計に変えた群は、練習中の伸びが127%と最も大きく、AIを外した試験での悪影響もほぼ確認されませんでした。この記事では、脱スキル化(deskilling)をめぐる実証研究を、AIが原因だと言えるもの、関係があると分かるだけのもの、変化を記録しただけのものに分けて読み直します。そのうえで、若手が育ちにくくなる構造、答えを渡すAIと問いを渡すAIの設計差、教育・育成に組み込む5つの型までを扱います。

出典 Bastani et al.・PNAS・2025年・https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2422633122

生成AIで技能や思考力が衰えるかは印象論から検証の段階へ移った

図解 研究の方法で言えることの範囲が違う(区別を飛ばすと相関を「AIが原因」と読み違える)

2025年には、学習への影響を参加者をくじ引きで分けて調べた試験が米国科学アカデミー紀要(PNAS)に、知識労働者の批判的思考をアンケートで調べた研究が国際会議CHIに、医療現場で導入前後の変化を記録した研究がThe Lancet系列誌に掲載されました。教育の現場と職場の双方で、同じ問いが本格的に検証され始めたことになります。

脱スキル化とは、自動化やAIに仕事を任せることで、人が担っていた技能が使われなくなり、維持されにくくなる現象です。生成AIとともに生まれた概念ではなく、自動化研究の分野では40年以上前から指摘されてきた構造です。

研究の種類も、結果の読み方を左右します。参加者をくじ引きで分け、AIを使う側と使わない側を同じ条件で比べた試験なら、生まれた差はAIの影響と考えてよい、というところまで言えます。一方、利用状況と自己評価をアンケートで尋ねた調査から言えるのは、両者が同時に見られるという関係までです。導入前後の変化を記録しただけの調査(観察研究)が言えるのは、「変化があった」ことまでです。この区別を飛ばすと、関係が見えただけの結果を「AIが原因で考えなくなった」と読み違えます。

原因まで言えるのはくじ引きで分けた試験だけでアンケート調査は傾向にとどまる

2025年前後に発表された主要な研究は、方法の違いで読み分けられます。

研究 発表・方法 対象 主な結果 言えることの範囲
Bastaniら PNAS 2025・くじ引きで3群(AIなし・チャット型・家庭教師型)に分けた試験(RCT) トルコの高校生約1,000名 練習中の成績は向上(+48%/+127%)。AIなしの試験でチャット型の群は-17%。ヒント型で悪影響ほぼ消失 AIが原因と言える。ただし高校数学・短期
Leeら(Microsoft Research×CMU) CHI 2025・アンケート調査 知識労働者319名 AIへの信頼が高い人ほど、批判的に考える取り組みが減ったと本人が回答。思考は検証・統合へ性質移行 本人の回答どうしの関係まで。AIが原因とは言えない
Gerlich Societies 2025・アンケートと聞き取りの併用 666名 AIをよく使う人ほど批判的思考の評価が低い傾向。考える作業をAIに預ける習慣が間に挟まる 傾向まで。AIが原因とは言えない。2025年9月に訂正(Correction)有り
Budzyńら2025(大腸内視鏡) The Lancet Gastroenterology & Hepatology 2025・ポーランド4施設で導入前後を記録(観察研究) 内視鏡医19名・AIを使わない検査1,443件 AI導入後、AIなし検査の腺腫検出率が28.4%から22.4%へ低下 変化があったという記録まで。AIが原因とは断定できないと著者が明記

答えを渡すAIとヒントを返すAIでは結果が逆転する

図解 答えを渡すAIとヒントを出すAIで結果が逆転(Bastaniらの試験。高校数学・短期で業務への適用は類推)

AIが原因だったと言えるくじ引き型の試験は、この一覧ではBastaniらの研究だけです。Bastaniらは、トルコの高校生約1,000名を対象に、数学の練習時間にGPT-4を使える群と使えない群をくじ引きで分けて比較しました。

結果は二段構えです。AIを使えた練習中の成績は、標準のチャット型(GPT Base)で48%、答えを渡さず段階的なヒントを返すガードレール付きの家庭教師型(GPT Tutor)で127%、未使用群より高くなりました。ところが、AIを取り上げた最終試験では結果が逆転します。チャット型で練習した群の成績は、一度もAIを使わなかった群より17%低かったのです。練習では伸びたように見えて、本人にスキルが残っていなかったことになります。

この悪影響は、AIの設計を変えるだけで消えました。答えをそのまま渡さない家庭教師型の群では、練習中の伸びが最も大きかったうえに、最終試験での悪影響はほぼ確認されませんでした。「AIを使うと学力が下がる」のではなく、「答えを渡す設計のAIで練習すると、成果が本人に残らない」。使い方で結果が逆転するというのが、この試験の読み方です。

出典 Bastani et al.・PNAS・2025年・https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2422633122

ただし適用範囲には限界があります。対象は高校数学で、期間も短期です。企業の実務にそのまま当てはめるのは類推で、同じ構造が職場でも起こりうるという仮説にとどまります。

批判的思考のアンケート調査が言えるのは傾向までで原因までは示せていない

職場を対象にした研究では、Microsoft Researchとカーネギーメロン大学が知識労働者319名に尋ねたアンケート調査(CHI 2025)が知られています。生成AIへの信頼が高い人ほど批判的に考える取り組みの自己申告が減り、自分のスキルへの自信が高い人ほど増える、という逆向きの関係が報告されました。あわせて、思考は消えるのではなく、情報の「収集」や文章の「生成」から、AI出力の「検証」「統合」やタスクの管理へと性質が移っていることも示されています。

出典 Lee et al.・ACM CHI 2025・https://www.microsoft.com/en-us/research/publication/the-impact-of-generative-ai-on-critical-thinking-self-reported-reductions-in-cognitive-effort-and-confidence-effects-from-a-survey-of-knowledge-workers/

Gerlichの研究(Societies 2025・666名)も、AIをよく使う人ほど批判的思考の評価が低いという関係を見いだし、その間には考える作業をAIに預ける習慣(認知オフロード)が挟まっていると分析しています。

出典 Gerlich・Societies・2025年・https://www.mdpi.com/2075-4698/15/1/6

この2つから言えるのは、AI利用の深さと批判的思考の自己評価の間に一貫した傾向がある、というところまでです。どちらも本人がそう感じたかを尋ねた調査なので、2つが同時に見られることは示せても、AIの利用が原因で思考力が下がったとまでは言えません。もともと確認を省きがちな人がAIを多用しているだけ、という逆向きの説明も排除できないからです。なおGerlichの論文には2025年9月に訂正(Correction)が出ており、傾向を示す補助的な材料と見ておくのが妥当です。

AIなしのときの成績が落ちる現象には40年前の自動化研究に前例がある

実際の業務の成績変化を記録した例としては、The Lancet Gastroenterology & Hepatologyに2025年に掲載されたBudzyńらの研究があります。ポーランドの4施設で大腸内視鏡のAI支援を導入した後、AIを使わない通常検査の腺腫検出率が、導入前の28.4%から導入後は22.4%へ6.0ポイント下がっていました。検査を担ったのは経験のある内視鏡医19名で、分析対象となったAIを使わない検査は1,443件です。導入前後の変化を記録した研究であり、著者ら自身がAIが原因とは断定できないと明記していますが、AIとともに働くことが「AIなしのときの成績」に影響しうることを、実務のアウトカムで示した点で注目されました。

出典 Budzyń et al.「Endoscopist deskilling risk after exposure to artificial intelligence in colonoscopy: a multicentre, observational study」The Lancet Gastroenterology & Hepatology, 10(10), 2025, pp.896-903 https://doi.org/10.1016/S2468-1253(25)00133-5 (解析データはACCEPT試験に由来。実施国はポーランド・4施設)

この種の現象は、生成AIで初めて見つかったものではありません。Bainbridgeは1983年の論文「Ironies of Automation」で、自動化には皮肉な構造があると指摘しました。自動化は定型の仕事を機械に移す一方で、最も難しい監視と例外対応を人間に残す。ところが日常業務で技能を使う機会が減るため、いざ例外が起きたときに必要な技能のほうが維持されにくくなる、という構造です。

出典 Bainbridge「Ironies of Automation」Automatica・1983年

ParasuramanとManzeyは2010年のレビューで、自動化への過信や出力をそのまま受け入れてしまう自動化バイアスは熟練者でも起こり、単純な訓練だけでは防ぎにくいと整理しています。

出典 Parasuraman & Manzey「Complacency and Bias in Human Use of Automation」Human Factors・2010年

生成AIをめぐる今の議論は、この40年来の知見の続きにあたります。新しいのは、対象が設備の運転や監視だけでなく、調べる・書く・考えるという知的な工程に広がった点です。

若手が育ちにくくなるのは経験の入口をAIが先に済ませるからである

図解 経験の入口をAIが先取りする構造(収集・生成の機会が細り、検証に要る蓄積が作れなくなる)

研究の一覧を企業に引きつけると、人材育成の課題として最も気がかりなのは若手の育ち方です。ベテランの脱スキル化は「あった技能が衰える」問題ですが、若手の場合は「技能がまだ形成されていない段階で、形成の機会が減る」問題になります。同じ脱スキルという言葉でくくられがちでも、実務では分けて考える必要があります。

思考は「収集・生成」から「検証・統合」へ移る

AIを使う仕事では、人の役割は情報を集めて文章を作ることから、AIの出力を検証し統合することへ移ります。この移行自体は悪い変化ではありません。問題は、検証という仕事が収集や生成よりも多くの蓄積を前提にすることです。

AI出力の誤りに気づくには、照合できる知識と、その業務での経験が要ります。ベテランは自分で調べ、書き、失敗してきた蓄積があるからこそ、出力を見て「この条件が抜けている」と指摘できます。ところが若手は、その蓄積を作っている途中の段階でAIとともに働き始めます。収集や生成の仕事はAIが済ませてしまうため、蓄積を作る機会そのものが減ります。照合するものを持たないまま検証だけを任される、という順序の逆転が起こります。

従来の育成を思い返すと、下調べ、議事録、たたき台の作成といった入口の業務は、単なる雑務ではありませんでした。若手はそこで資料の在りかと業務の全体像を覚え、先輩の直しを受けて自分の抜けを知りました。生成AIは、まさにこの入口の業務から置き換えていきます。効率化としては正しい選択が、同時に育成の機会を減らしています。

経験の機会が細って人が育たなくなる構造には技能伝承という前例がある

製造業などの技能伝承では、効率を優先して若手を定型作業に集中させ、段取り替えや異常対応をベテランが抱え込む分担が続いてきました。その結果、ベテランの引退とともに例外への対応力が失われるという失敗が指摘されています。仕事を任せて経験させる機会と、そばで判断を見る機会が減ると、教材や研修だけでは技能は渡りません。この失敗の型は、別記事「技術継承・技能伝承が失敗する理由」で整理しています。

生成AIが入った職場は、この失敗と同じ形になりえます。AIが日常の答えを返してくれる間は業務が回り、成果も出ます。Bastaniらの試験で言えば、練習中の成績が未使用群より48%高かった状態です。しかしBainbridgeが指摘したとおり、自動化が人に残すのは最も難しい例外対応です。AIが答えられない場面、AIの答えを疑うべき場面は必ず残り、そこでは人の経験と判断力が問われます。日常の業務で経験を積む機会が減ったまま例外だけが人に戻ってくるなら、例外に応えられる人をどう育てるかは、従来の技能伝承よりも切実な課題になります。

答えを渡すAIと問いを渡すAI。設計の差が結果を分ける

ここまでの整理から、「だからAIの利用を控えるべきだ」という結論は出てきません。Bastaniらの試験が示した分岐は、AIを使うかどうかではなく、どう設計されたAIを使うかで結果が変わるというものでした。

効率と学習は二者択一ではなく設計次第で両立する

答えをそのまま返すチャット型で練習した群は、練習中は未使用群より48%高く、AIなしの試験では未使用群より17%低い結果でした。答えを渡さず段階的なヒントを返す家庭教師型の群は、練習中に127%伸びたうえで、試験での悪影響はほぼ確認されませんでした。効率と学習は二者択一ではなく、設計次第で両立していたことになります。2つの設計の違いは、人の側にどの工程を残すかにあります。

観点 答えを渡す設計 問いを渡す設計
AIの出力 完成した答え・成果物 段階的なヒント・確認の問い・判断材料
人に残る工程 出力の受け取りと検証 自分で考えて答えを作る工程
利用中の成果 上がりやすい(Bastaniらの試験で+48%) 上がりやすい(Bastaniらの試験で+127%)
AIを外したときの力 残りにくい(Bastaniらの試験で-17%) 悪影響はほぼ確認されず

出典 Bastani et al.・PNAS・2025年(前掲)。高校数学での結果であり、業務への適用は類推。

問いを渡す設計を業務に置き換えると原則は3つになる

人の側にどの工程を残すかという観点で見ると、業務用のAIに求めることは次の3点にまとまります。

  • 答えの前に問いを置く 依頼に対して即座に完成物を返すのではなく、前提や条件の確認を挟む。利用者が自分の判断材料を言語化する機会が残る
  • 根拠を必ず表示する どの資料・どの判断基準に基づく出力かを示す。根拠が見えれば、出力をそのまま受け入れる利用が減り、検証という仕事が成り立つ。出力の鵜呑みが熟練者でも起こることは前述のとおりで、根拠表示はその対策でもある
  • 例外時は止めて人に戻す 条件から外れる案件はAIが答えを埋めず、人の判断に戻す。例外対応の経験が人の側に蓄積される

3点目は行政の指針とも方向が一致します。総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、公平性の指針の中で、AIに単独で判断させるだけでなく、適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用の検討を求めています。

出典 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」概要・2026年・https://www.soumu.go.jp/main_content/001064299.pdf

この3原則は、見方を変えると、ベテランの暗黙知を引き出す使い方と同じ形をしています。答えを与えるのではなく問いを立て、根拠をたどれる形で残し、例外は例外として分けて扱います。AIに答えを出させる相手としてではなく、人の判断を引き出し、検証できる形に残す相手として使う発想です。この使い方でどこまで残せるかは、別記事「暗黙知をAIで形式知化できる範囲」で扱っています。

AI側の設計を選べなくても育てる側の運用で考える工程は残せる

市販の生成AIをそのまま使う職場では、出力の返し方を変えることはできません。それでも、どの業務でどう使わせるかは決められます。実務に組み込みやすい型を5つに整理します。

ねらい 実務での組み込み方
1. AI出力を出発点として扱う訓練 検証を名目でなく仕事にする 出力の根拠・前提・抜けを確認する観点を決め、確認の結果まで含めて成果物とする
2. AIなしで先に考えるケース演習 考える工程を確保する 育成対象の業務を選び、自分の答えを作ってからAIの出力と突き合わせる
3. フィードバックの蓄積 例外と誤りを教材に変える AI出力の誤り・修正内容・例外対応の記録を残し、振り返りに使う
4. 照合先となる判断基準の整備 検証のよりどころを渡す 誰の・どの条件での判断かを保ったまま、判断基準を文書にして渡す
5. AIリテラシー教育 限界と検証の仕方を教える 操作方法だけでなく、誤りの型・出典の確かめ方・使ってよい範囲をセットで教える

出発点として扱うには照合先と確認の観点が要る

Microsoftの2026年版Work Trend Index(10か国2万人・ベンダー調査)では、回答者の86%がAIの出力を「最終回答ではなく出発点」として扱うとされています。

出典 Microsoft WorkLab・2026年・https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/agents-human-agency-and-the-opportunity-for-every-organization

方向としては妥当です。ただ、出発点として扱うには続きの工程が要ります。何と照合し、どこを確かめれば検証したことになるのか。照合先と確認の観点が決まっていなければ、出発点と呼びながら実際にはそのまま使う運用に流れがちです。検証の観点を決め、確認の結果まで成果物に含めて初めて、検証は名目でなく仕事になります。

検証の照合先になるのが判断基準です。この案件はなぜこの結論なのか、どの条件なら例外なのか。ベテランの頭の中にある基準を、帰属と条件を保ったまま文書にして渡せば、若手は自分の経験が育つ前でも、基準と突き合わせる形で検証を始められます。基準は白紙に書かせても出てきません。実際にあった事例を1つ選び、どんな条件で・何を見て・何と比べて・例外は・やめる基準は、の順に聞き出すと条件と例外が言葉になります。問いの立て方と基準の残し方は、別記事「判断基準の作り方と5つの問い」で整理しています。

型2のケース演習は、Bastaniらの試験でヒント型が効いた仕組みを業務に置き換えたものです。育成したい業務を絞り、AIに聞く前に自分の答えを作ります。そのうえでAIの出力と突き合わせ、差分がなぜ生まれたかを言葉にします。すべての業務で行う必要はなく、判断力を育てたい業務に限って考える工程を確保する、という使い分けが現実的です。

リテラシー教育で比重を置くべきは操作ではなく限界と検証である

前述のAI事業者ガイドライン(第1.2版)は、共通の指針の1つに「教育・リテラシー」を挙げ、AIを利用する側に十分なレベルのAIリテラシーを確保する措置を求めています。法的義務ではなく自主的な取組を支援する指針ですが、社内教育を企画する際の根拠として参照しやすい文書です。

出典 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」概要・2026年(前掲)

リテラシー教育は操作研修に寄りがちですが、脱スキル化を防ぐ観点で比重を置くべきは、限界と検証の側です。生成AIがどのような誤り方をするか、根拠をどう確かめるか、どの業務では使ってよく、どの判断は人に残すか。ここまで教えて初めて、AI出力を出発点として扱う訓練と接続します。そしてこの教育は単発の研修では完結せず、判断基準の整備や文書の正本管理といった組織側のナレッジ運用と一体で設計する必要があります。その全体像は、別記事「生成AI時代のナレッジマネジメント」で扱っています。

よくある質問

新人や若手には生成AIを使わせないほうがよいのか

禁止は有力な選択肢とは言いにくいです。Bastaniらの試験では、ヒント型のAIで練習した群は成績が最も伸び、AIを外した試験でも悪影響はほぼ確認されませんでした。問題は利用そのものではなく、答えを丸ごと受け取る使い方にあります。禁止すれば効率と学習支援の両方を失ううえ、業務では結局AIを使う場面が残ります。使う業務と使い方の条件を決め、検証の観点とケース演習をセットにするほうが現実的です。

生成AIで批判的思考は本当に低下するのか

批判的思考について、AIが原因だと言い切れるところまで示した研究は、まだありません。Microsoft ResearchとCMUの調査(319名)やGerlichの研究(666名)は、AIをよく使う人ほど批判的思考の自己評価が低いという傾向を示しましたが、いずれも本人がそう感じたかを尋ねた調査です。一貫して報告されているのは、思考の中身が収集・生成から検証・統合へ移っているという性質の変化までです。低下と断定はできませんが、検証を仕事として設計しなければ考える工程が細りやすい、と読むのが実務的です。

脱スキル化とは何か。生成AI特有の現象なのか

自動化やAIに仕事を任せることで、人が担っていた技能が使われなくなり、維持されにくくなる現象を指します。生成AI特有ではありません。Bainbridgeが1983年に、自動化は最も難しい例外対応を人に残す一方で、日常の技能を使う機会を減らすという構造を指摘しています。生成AIで新しいのは、対象が設備の運転や監視だけでなく、調べる・書く・考えるという知的な工程に広がった点です。

ベテラン社員なら影響を受けないのか

経験があっても影響は観察されています。前掲のBudzyńらの研究で腺腫検出率の低下が確認されたのは、経験のある内視鏡医19名でした(導入前後を記録した研究のため、AIが原因とは断定できません)。またParasuramanとManzeyのレビューは、自動化への過信や出力の鵜呑みは熟練者でも起こると整理しています。若手は技能を形成する機会、ベテランは技能を維持する機会というように、影響の出方が違うと捉えるのが実態に近いはずです。

AI時代の人材育成はまず何から手を付けるべきか

対象業務を絞ることから始まります。全業務に一律のルールを敷くより、判断力を育てたい業務を選び、その業務でケース演習と判断基準の整備を先に進めるほうが続けやすいはずです。並行して、AI出力の確認観点(根拠・前提・例外)を決めて検証を成果物に含め、リテラシー教育で限界と検証の仕方を教えます。5つの型を一度にそろえる必要はなく、型1・2・4から始める組み立てが現実的です。

脱スキルは生成AIの宿命ではなく設計の結果である

生成AIで人は育たなくなるのか。実証研究を、AIが原因と言えるものと関係が見えただけのものに分けて読み直すと、答えは「使い方の設計次第」に収束します。

  • AIが原因と言えるくじ引き型の試験(Bastaniら)では、答えを渡すAIで練習した群はAIなしの試験で17%低く、ヒント型では悪影響がほぼ消えた
  • 批判的思考との関係を調べた研究は本人の自己評価にとどまるが、思考が収集・生成から検証・統合へ移るという性質の変化は一貫して報告されている
  • 若手が育ちにくくなるのは、検証の前提となる経験の入口をAIが先に済ませてしまう構造の問題で、技能伝承の失敗と同じ形をしている
  • 対策の軸は2つ。AI側は答えの前に問い・根拠表示・例外で人に戻す設計、育成側は出発点として扱う訓練・ケース演習・フィードバック蓄積・判断基準整備・リテラシー教育の5つの型

Bainbridgeの指摘から40年あまり、自動化が例外対応という最も難しい仕事を人に残す構造は変わっていません。生成AIの活用が深まるほど、例外に向き合える人をどう育てるかが人材育成の中心課題になります。脱スキル化は生成AIの宿命ではなく、答えを渡す設計を選び続けた結果です。設計と育成の側で変えられる余地は、研究が示すとおり小さくありません。

加藤晃寿郎

この記事の執筆者

加藤晃寿郎

株式会社taiziii 代表取締役 慶應義塾大学で経済学を専攻しながら、エンジニアとして在学中にコスメ系アプリ事業で起業。 上記起業を経て、再度在学中にシステム開発会社を創業。Webのフロント開発からバックエンド開発まで、あらゆるWeb開発、幅広く対応可能なオールラウンダーとして活躍。 大規模開発のためのエンジニアチームを持っているという特性も活かしながら、外部CTOとしても多くの企業の開発課題を解決してきている。 StockSunを含め複数社の事業新規立ち上げ、開発支援を行っており、ビジネス設計を含めた設計及び開発までワンストップで対応している。

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