W H I T E P A P E R
2 0 2 6 年8 月
3D設計資産の
活用
3Dを「開き・探し・つなぐ」
実装アーキテクチャ
Putting 3D Design Assets to Work:
An Implementation Architecture to Open, Search,
and Connect 3D Models
P U B L I S H E D B Y
taiziii Research
Manufacturing DX Desk
© 2026 taiziii Research | Confidential
本書の位置付け
本書は、製造業のDX担当者(事業部のDX推進部門、設計・生産技術・調達部門の部長・課長クラス)を
読者に想定した、3D設計資産の活用に関する実務レポートである。「3D化すればよい」という総論では
なく、社内に蓄積された3D CADデータ・3Dモデルを、どの技術で開き、どう探し、どうやって実績・知
見につないで再び使える状態にするのかという技術的な具体に踏み込む。
多くの製造業がこの十数年で3D CADへ移行し、膨大な3Dモデルを蓄積してきた。にもかかわらず、その
多くは「作って、図面に落として、サーバーに置いた」状態にとどまり、旧バージョンや旧形式で開けな
い、似た形状の過去モデルを探せない、見積・加工・実績とつながらない、という壁の前で死蔵されてい
る。結果として、過去に設計した形状があるのに見つけられず、ゼロから設計し直す重複が日常的に発生
している。
本書が一貫して主張するのは、3D設計資産の活用は「3Dモデルを作って持つこと」ではなく、「開けな
い・探せない・つながらないという3つの壁を、技術で順に取り除き、3Dを設計の起点として回し続ける
こと」だという点である。なお、紙・2D図面のOCRや読取りといった2D固有の論点は別テーマとして扱
い、本書は3Dという対象に固有の処理に焦点を絞る。
本書は公開情報および一般的な実装知見に基づく。記載する効果や水準は対象データの状態・規格・運用により大きく変
動するため、絶対値ではなく傾向として参照されたい。
目次
1
なぜ3D設計資産は「活かしきれない」のか
開けない・探せない・つながらないという3つの壁
2
3D設計資産活用の技術スタック全体像
移行→解釈→構造化→ベクトル化→活用の5段
3
3Dを「開く」 ― 形式・版・相互運用とMBD/PMIの壁
旧形式・変換ロス・図面レス化をどう乗り越えるか
4
3Dを「探す」 ― 3D形状ベースの類似検索
図番検索の限界と、3Dモデルでの類似検索
5
3Dを「つなぐ」 ― PLM・デジタルスレッドと知見継承
メタデータ紐付け、設計知見の継承、生成AIの位置
6
先進事例 ― 3Dを「使える資産」に変える
日本精工の3DA製造図、トヨタ自動車東日本の3D活用に学ぶ
7
導入ロードマップと落とし穴
スモールスタートの順序、優先順位、つまずきポイント
© 2026 taiziii Research | Confidential
◆エグゼクティブ・サマリー
5つのキーメッセージ
3D設計資産の活用は、3Dモデルを作って保存することではなく、3Dを再び使える状態に戻すための一連
の技術設計である。本書の要点を5つにまとめる。
1
3Dの死蔵は「開けない・探せない・つながらない」の3つの壁に分解できる
3Dモデルが活用されない理由は曖昧な「管理が悪い」ではなく、3つの具体的な壁にある。旧バージョ
ン・旧形式で開けず変換でフィーチャが落ちる(開けない)、図番でしか探せず似た形状を引けない
(探せない)、3Dが見積・加工・実績とつながっていない(つながらない)。これに「そもそも過去資
産が2Dのみで3Dが無い」という前提課題が加わる。この壁を技術で順に取り除くことが本書の設計指
針である。
2
3D活用は「移行→解釈→構造化→ベクトル化→活用」の技術スタックで捉える
3D CADを導入し、モデルを持っているだけでは出発点にすぎない。旧形式・2Dからの移行、フィーチ
ャ・PMIの解釈と付与、属性・BOMへの構造化、形状のベクトル化を経て、ようやく検索・連携・再利
用が可能になる。多くの企業が「3Dを作った」で止まり、相互運用・検索・紐付けに踏み込めていな
い。
3
最大の難所は「開く=扱える化」であり、全部を一律にMBD化しない優先順位設計
が要る
3Dの難所は2Dの読取り(OCR)とは別物で、形式・版・カーネル依存と相互運用にある。旧ネイティ
ブは開けず、中立形式に変換するとフィーチャや履歴が落ちる。MBD/PMIで3Dに寸法・公差・注記を
載せれば図面レス化できるが、全モデルを一律に高度化しようとすると頓挫する。再利用価値の高いも
のから機械可読・相互運用可能にする設計判断が投資対効果を決める。
4
「探す」の本質は、図番検索から3D形状ベースの類似検索への転換にある
図番やファイル名での検索は、その図番を知っている前提でしか機能せず、表記ゆれにも弱く、似た形
状を探せない。3Dモデルの形状的特徴をベクトル(特徴量)化し、距離の近さで類似モデルを抽出す
る検索に変えることで、モデリング手順の違いを越えて誰でも過去の類似設計を引き出せる。先端では
形状から加工難易度やコストを推定する応用も現れている。
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5
3D単体では価値が薄い。PLM・実績・知見との紐付けが「使える資産」への分かれ
目
類似モデルが見つかっても、それに見積・加工実績・不具合履歴・設計意図が紐づいていなければ「似
た形が見つかった、で、どうだったか?」で終わる。3Dへのメタデータ紐付けとデジタルスレッドこそ
が再利用の核心であり、さらに設計意図や検討経緯をデータ化すれば、3Dは技術伝承の器にもなる。
生成AI・RAGは、この土台の上に乗る応用である。
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01 なぜ3D設計資産は
「活かしきれない」のか
開けない・探せない・つながらないという3つの壁
K E Y F I N D I N G S
多くの製造業は3D CADへ移行し膨大な3Dモデルを蓄積したが、その多くは「作って図面に落とし
て置いた」だけで活かしきれていない
死蔵の原因は「開けない・探せない・つながらない」の3つの壁に分解でき、加えて「過去資産は
2Dのみで3Dが無い」という前提課題がある
結果として、過去に設計した形状を見つけられず、ゼロから設計し直す重複や流用機会の損失が発
生する
2Dと最も違うのは「開く(扱える化)」の壁で、形式・版・相互運用が活用の入口を塞いでいる
1.1 「3Dはあるのに使えない」という構造問題
3D CADの普及により、製造業は形状・寸法・公差・構成といった設計情報を、紙の2D図面よりはるかに
豊かに表現できるようになった。本来その3Dモデルは、新たな設計を一から起こす手間を省き、製造・
検査・保守まで一気通貫で使える資産である。ところが現実には、蓄積された3Dの大半が「あるのに使
えない」状態に置かれている。3Dデータは2Dの画像PDFより重く、形式や版への依存も強いため、死蔵
の質が2Dとは異なる。
1.2 死蔵を生む3つの壁
「管理が悪い」という曖昧な言葉で片付けてはいけない。3D設計資産が死蔵される理由は、次の3つの具
体的な壁に分解できる。本書は、この3つを技術で順に取り除いていく構成をとる。
3D設計資産を阻む3つの壁
出所:taiziii Research 作成
第1の壁「開けない」。3Dモデルは作成したCADの種類・バージョン・カーネルに依存する。旧バージョ
ンや旧形式のネイティブデータは、最新環境で開けない・編集できないことがある。異なるCAD間では
STEPやIGESといった中立形式で受け渡すが、その際にフィーチャ(設計の意図が宿る作成履歴)やパラ
メトリックな編集性、PMI(製品製造情報)が落ち、形状だけの「ただの塊」になりがちである。これは
2D図面の読取り(OCR)とは別種の、3D固有の難所である。
第2の壁「探せない」。3Dモデルにたどり着けても、探し方が図番・ファイル名のままでは、その図番を
知らなければたどり着けず、命名規則が部署や時代で揺れていれば検索は当てにならない。そして決定的
に、「これに似た形状を過去に作っていないか」という最も価値ある問いに、図番検索は答えられない。
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第3の壁「つながらない」。3Dが扱えるようになっても、それが「いくらで、どこに発注し、どう加工
し、どんな不具合が出たか」という実績データと結びついていなければ、再利用の意思決定には使えな
い。3Dと周辺データの分断こそ、活用を阻む最後の壁である。
さらに3Dには2Dにない前提課題がある。過去資産がそもそも2D図面しか存在せず、3Dモデルが無いケ
ースが多いことだ。古い設備や部品は3D化されておらず、活用の前に「どれを3D化するか」という判断
が要る。
死蔵の代償は「重複設計」と「流用機会の損失」
3つの壁がもたらす代償は具体的である。第一に重複設計。過去に類似形状を設計していても見つけられ
ず、設計者が一からモデルを起こす。第二に流用機会の損失。過去の3Dと実績がつながっていないた
め、見積・調達・補修で「実績ベースの判断」ができず、毎回ゼロから検討する。いずれも「3Dはある
のに使えない」ことに起因する、防げたはずの損失である。
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02 3D設計資産活用の
技術スタック全体像
移行→解釈→構造化→ベクトル化→活用の5段
K E Y F I N D I N G S
3D設計資産の活用は「移行→解釈→構造化→ベクトル化→活用」の5段の技術スタックで捉える
3D CADを導入し、モデルを持っているだけでは出発点にすぎず、多くの企業が「作った」で止まっ
ている
本書が扱う中心は、解釈(第3章)・構造化・ベクトル化(第4章)と、紐付けによる活用(第5
章)である
データ基盤やストレージの選択は本シリーズの別テーマであり、本書は3D固有の処理に絞る
「3Dを活用する」と一口に言っても、実際には複数の技術段階を順に踏む必要がある。各段階で何が行
われ、どこでつまずきやすいかを理解することが、投資の設計判断の前提になる。
3D設計資産活用の技術スタック
出所:taiziii Research 作成
2.1 5段の技術スタック
第1段「移行」。旧形式・旧バージョンのネイティブや、3Dが無い場合は2D図面を、開ける・扱える状態
に移す。中立形式(STEP等)や最新CADへの変換、必要に応じた3Dモデル化が含まれる。物理的・形式
的な制約から解放される最初の一歩だが、この時点では中身はまだ「形状」であり、設計情報が機械に伝
わっていない。
第2段「解釈」。フィーチャやPMI(寸法・公差・注記)を3Dに解釈・付与し、異なる環境でも意味が伝
わる状態にする。MBD(モデルベース定義)化と相互運用の確保がここに集中する。3D固有の難所であ
り、第3章で詳述する。
第3段「構造化」。形状とPMIを、材質・公差・部品種別・構成(BOM)といった意味のある属性に整理
する。単なる形状データを、検索や分析に使える構造化データに変える段階である。
第4段「ベクトル化」。3Dの形状的特徴を数値のベクトル表現(特徴量)に変換する。これにより「図番
の一致」ではなく「形状の近さ」での検索が可能になる。3D形状ベースの類似検索の土台であり、第4章
で扱う。
第5段「活用」。3D類似検索、流用設計、PLM・デジタルスレッドとの連携、そして土台の上での生成
AI・RAG。ここまで到達して初めて、3Dは「使える資産」になる。
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多くの企業は「持っている」で止まっている
注意すべきは、多くの企業の3D活用が「3D CADを導入し、モデルを作った」段階で止まっていることで
ある。モデルがサーバーにあるだけでは、開けない・探せない・つながらないの壁はそのまま残る。む
しろデータが重く増えて扱いにくくなることすらある。投資効果は、第2段以降にどこまで踏み込めるか
で決まる。なお、抽出・構造化したデータをどこに格納するか(データ基盤・ストレージの選択)は本
シリーズの別テーマに譲り、本書は3Dという対象に固有の処理に焦点を絞る。
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03 3Dを「開く」 ― 形式・版・
相互運用とMBD/PMIの壁
旧形式・変換ロス・図面レス化をどう乗り越えるか
K E Y F I N D I N G S
3Dの最大の難所は「開く=扱える化」で、形式・版・カーネル依存と相互運用にある。2Dの読取
り(OCR)とは別問題
中立形式(STEP等)への変換は形状を渡せるが、フィーチャ・履歴・PMIが落ちて「ただの塊」に
なりやすい
MBD/PMIで3Dに寸法・公差・注記を載せれば図面レス化できるが、全モデル一律のMBD化は頓挫
する。優先順位設計が要る
重い3Dを現場・取引先が扱うには、軽量フォーマット(JT・XVL等)とビューイングの整備が鍵に
なる
3.1 3Dの難所は形式・版・相互運用にある
2D図面の死蔵が「画像のままで機械が読めない」という読取りの問題だったのに対し、3Dの死蔵は「開
けない・編集できない・他のCADに渡せない」という相互運用の問題である。3Dモデルは作成したCAD
の種類・バージョン・形状カーネルに強く依存し、旧バージョンや廃れた形式のネイティブは、最新環境
で開けないことがある。異なるCAD間ではSTEPやIGESといった中立形式で受け渡すが、その過程でフィ
ーチャ(作成履歴)やパラメトリックな編集性、PMIが失われ、形状だけの「ただの塊(ダムソリッ
ド)」になりやすい。新品のモデルを開くのとはわけが違う、という前提を最初に置くべきである。土
台となる移行・相互運用の設計を省略した3D活用は、必ず後で破綻する。
3.2 MBD/PMI ― 「図面に依存しない」3Dへ
3Dを単なる形状から「製造・検査に使える情報」に引き上げるのがMBD(モデルベース定義)である。
MBDは、従来2D図面に書いていた寸法・公差・データム・表面性状・注記・部品表といったPMI(製品
製造情報)を3Dモデルに直接定義し、図面とモデルの不一致や転記作業によるエラーを排除する考え方
だ。意味づけされたPMI(セマンティックPMI)はCAMやCMMソフトが機械的に読み取れるため、加工・
検査の指示にそのまま反映できる。これらはASME Y14.41、ISO 16792、STEP AP242といった規格で体系
化されている。重要なのは、最も難しいのは規格対応そのものではなく、図面前提で組まれてきた業務プ
ロセスを変えることだという点である。
3.3 対象によって難度は大きく異なる
3Dで「開く・扱える化」する際も、対象によって難度はまるで違う。これを無視して「過去の3Dを全部
MBD化する」と構えると、最難関に引きずられてプロジェクトが頓挫する。
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対象(扱える化する対象)
概要
難易度
最新・同一CADの3Dモデル
そのまま開ける。活用の出発点
低
中立形式(STEP等)への変換
形状は渡せるが、フィーチャ・履歴は落ちやすい
低〜中
PMI/MBDの付与・相互運用
規格(STEP AP242等)対応と運用プロセスの設計が要る
中
旧バージョン・旧形式のネイティブ
開けない/編集できない。版・カーネル依存が強い
中〜大
廃れたカーネル・独自形式
専用変換や形状の再構築が必要
大
2D図面のみで3Dが無い
2D→3D化(リバース・再モデリング)の要否判断から
大
難易度は対象データの状態・規格・運用により変動する相対的な目安。「どれを開ける・MBD化するか」の優先順位設計
が要となる。
設計判断:再利用価値で「何を開ける/MBD化するか」を切る
正しい進め方は、全モデルの一律高度化ではなく、再利用に効く対象から優先的に扱える化することで
ある。流用・補修頻度が高く価値の大きいモデル群を中立形式・MBD化の先頭に置き、開けない旧形式
の完全復元や全量の2D→3D化は、費用対効果を見て後回しにするか人手の確認と組み合わせる。MBD
へ移行しても、現場で意味を持つ2D図面の手法をやみくもに切り捨てないことも重要である。「何を開
ければ再利用が進むか」から逆算して投資範囲を切ることが、3Dの扱える化の核心である。
3.4 軽量化とビューイング ― 「現場が扱える」状態にする
3Dモデルは設計部門のハイスペック環境を前提に作られ、そのままでは生産現場や調達・取引先の端末
では重くて扱えない。そこで、形状とPMIを保ったまま大幅に軽量化したフォーマット(JTやXVL等)に
変換し、低スペックのPCやタブレットでも3Dを閲覧・計測・断面確認できるようにする。3Dの組立図や
作業指示を現場に配信し、設計時に作図していない寸法も現場で取得できるようにすることで、図面に依
存しない運用が成り立つ。「開く」とは、設計者だけでなく、製造・調達・保守の現場が3Dを実際に扱
える状態にすることまでを指す。
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04 3Dを「探す」 ― 3D形状
ベースの類似検索
図番検索の限界と、3Dモデルでの類似検索
K E Y F I N D I N G S
図番・ファイル名検索は「図番を知っている前提」でしか機能せず、表記ゆれにも弱く、似た形状
を探せない
3Dモデルの形状的特徴をベクトル化し、近さで検索する「類似形状検索」が、探す体験を根本から
変える
3D CADファイルを所定の場所に置くだけで自動でデータベースを構築し、形状で検索できるソリ
ューションが複数提供されている
ただし検索の価値は、3Dに見積・加工実績などのメタデータが紐づいて初めて発揮される(第5
章)
4.1 図番検索の3つの限界
第3章までで3Dが開けて扱える状態になっても、「探す」が図番・ファイル名検索のままでは、第2の壁
は半分しか崩れない。図番検索には3つの限界がある。第一に、その図番を知っている前提でしか使えな
い。第二に、命名規則の表記ゆれ(担当者・時代による違い)に弱い。そして第三に、最も本質的な限界
として、「似た形状のモデル」を探せない。流用設計のために「これに近い過去のモデルはないか」と問
いたいのに、図番検索はその問いに構造的に答えられない。
図番検索から3D形状ベースの類似検索へ
出所:taiziii Research 作成
4.2 3D形状ベースの類似検索
この限界を超えるのが、3D形状ベースの類似検索である。仕組みの核心は、3Dモデルの形状的な特徴を
抽出し、数値のベクトル(特徴量)に変換することにある。3Dを点や面の羅列としてではなく、「形状
の指紋」とでも呼ぶべきベクトルとして表現する。すると、2つのモデルが似ているかどうかを、ベクト
ル同士の距離の近さとして計算できる。モデリングの手順や作成者が違っても、形状が近ければ拾い上げ
られる。
この方式は実用水準に達している。3D CADファイルを所定のフォルダに置くだけで自動的に類似形状検
索のデータベースを構築し、PDM/PLMに依存せず形状で検索できるソリューションが複数提供されてい
る。引合いで受け取った3Dや、探したい形状を投入するだけで、過去の類似品が一覧表示される。ある工
作機械メーカーの公表事例では、類似品の検索を従来の数十分から数分へ短縮することを狙い、探す時間を新規開発に振
り向ける取り組みが進められている。
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技術的には、形状に加えて材質・品名などの属性を組み合わせた複合検索や、図面・モデルに明示的に書
かれていない情報をAIで推定する応用も進む。たとえば形状から加工難易度を推定したり、コストを当て
にいく回帰タスクである。重要なのは個別アルゴリズムの優劣よりも、「図番の一致」から「形状の近
さ」へと検索の原理が変わったという点である。
検索だけでは半分。価値は紐付けで完成する
ただし、ここで立ち止まってはいけない。類似モデルが数秒で見つかっても、それだけでは「似た形が
見つかった。で、これはいくらで、どう作ったんだっけ?」で終わってしまう。検索が実務価値を生む
のは、見つかったモデルに見積・加工実績・発注先といったメタデータが紐づいているときだけであ
る。「探す」技術と「つなぐ」設計は、車の両輪として一体で考える必要がある。次章でこの紐付けを
扱う。
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05 3Dを「つなぐ」 ― PLM・デジタル
スレッドと知見継承
メタデータ紐付け、設計知見の継承、生成AIの位置
K E Y F I N D I N G S
3D単体を整備しても価値は薄い。実績・コスト・ノウハウとの紐付けが「使える資産」への分かれ
目
見積・加工実績・不具合履歴・BOMを3Dに紐づければ、見積回答・流用設計・コスト精査が一気
に加速する
デジタルスレッド/PLMが、3Dを設計・製造・保守で一気通貫につなぐ。さらに暗黙知のデータ化
で技術継承の器になる
生成AI・RAGは、これら構造化・紐付けされたデータの上に乗る応用であり、土台整備が先である
5.1 3Dへのメタデータ紐付けが再利用の核心
第3の壁「つながらない」を崩す鍵が、3Dへのメタデータ紐付けである。3Dは「形状+PMI」の情報だ
が、再利用の意思決定に必要なのはその周辺データだ ― この部品はいくらで見積もったか、どこに発注
したか、どう加工したか、どんな不具合が出たか、なぜその設計にしたのか。これらをPLM・デジタルス
レッドで3Dに結びつけて初めて、3Dは意思決定に使える資産になる。
3Dモデルへのメタデータ紐付け
出所:taiziii Research 作成
具体的な効果は明快である。引合いの形状から過去の類似品が表示され、そこに加工実績や見積単価が
紐づいていれば、見積回答までのリードタイムが大幅に短縮できる。流用設計では、類似の過去モデルを
ベースに寸法や仕様を調整するだけで新規モデルが仕上がり、設計工数が削減される。調達では、3Dの
類似形状検索に実績を結びつけることで、過去の同等品との見積金額の比較や妥当性の確認、実績のある
サプライヤの絞り込みが進み、新規品番の登録や金型コストを抑制できる。いずれも、3Dに紐づいたメ
タデータがあって初めて成立する。
よくある失敗:3Dだけ整備してPLM・実績連携を軽視する
3D検索やビューアを導入したのに効果が出ない、という失敗の多くはここに起因する。3Dモデルだけを
整備し、見積・実績データやPLMとの連携を後回しにすると、「検索はできるが、その先の判断に使え
ない」状態に陥る。3D管理と見積・調達・PLMの連携設計が、運用上の最重要ポイントである。検索エ
ンジンだけを高度化しても効果は限定的になる。
© 2026 taiziii Research | Confidential
5.2 デジタルスレッドと設計知見の継承
紐付けの対象を、客観的な実績データから一歩進めて設計意図・検討経緯・判断理由といった「暗黙
知」にまで広げると、3D設計資産は技術伝承の器になる。なぜこの寸法・形状にしたのか、なぜこの材
質を選んだのか、どんな失敗を経て今の形に至ったのか。熟練設計者の頭の中にしかないこうした判断の
勘所は、退職や異動とともに失われていく。これを3Dに結びつけて残せれば、次世代の設計者が過去の
知見を引き継げる。3Dを設計・製造・保守の各工程で途切れさせずにつなぐデジタルスレッドは、この
継承の通り道にもなる。
5.3 生成AI・RAGは「土台の上の応用」である
近年注目される、設計データを自然言語で検索・質問できる生成AI・RAG(検索拡張生成)は、この文脈
に位置づけられる。「この形状に近い過去の設計はないか」「この部品で過去に不具合はなかったか」
といった問いに、社内の3D・技術文書を根拠として答えさせる応用である。仕組みとしては、構造化・
ベクトル化された3Dと技術文書を検索層が引き当て、その内容を根拠として大規模言語モデルが回答を
生成する。ただし強調すべきは、生成AI・RAGは、これまで述べた移行・解釈・構造化・ベクトル化・紐
付けという土台の上に乗る応用だという点である。土台が未整備のまま生成AIだけを導入しても、根拠を
欠いた曖昧な回答しか返らない。「まず生成AIを入れる」のではなく「土台を整えた上で生成AIを乗せ
る」という順序を誤らないことが肝要である。
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06 先進事例 ― 3Dを
「使える資産」に変える
日本精工の3DA製造図、トヨタ自動車東日本の3D活用に学ぶ
K E Y F I N D I N G S
日本精工は2D図面から3DA製造図へ移行し、軽量フォーマットXVLで設計と製造をデータ連携、生
産準備の期間短縮を狙う
成功の鍵は、3Dに製造情報(PMI)を集約し、図面という媒体を介さず設計と製造が同じ3Dを参照
する点にある
トヨタ自動車東日本はXVLの3D指示図と3D動的シミュレーションで、設計から工場まで3Dを一気
通貫に流している
両社に共通するのは、3Dを「保管する対象」から「設計・製造・保守をつなぐ実装」へ転換させた
点である
3D設計資産の活用が実際にどう成果を生むのか。性格の異なる2社を取り上げ、どこが優れているのかを
具体に見る。いずれも公表されている事例に基づく。
6.1 日本精工 ― 2D図面から3DA製造図へ
軸受や精密機器を手がける日本精工(NSK)は、設計と製造の連携を、2D図面ベースから3DA製造図へ
移行する取り組みを進めている。3DA製造図とは、3Dモデルに製造に必要な情報(PMI)を集約した、図
面に相当する3Dである。設計と生産サイドのデータのやり取りには軽量フォーマットの「XVL」を採用
し、そのXVLデータに生産に必要な情報を格納することで、スムーズなデータ連携を実現している。狙い
は、2D図面への転記や解釈を介さず、生産準備の期間を短縮することにある。本書で述べた移行・解釈
(MBD/PMI)・軽量化・紐付けの一連を、3Dという対象に対して実装したものといえる。
日本精工 ― 2D図面から3DA製造図へ(XVL)
出所:ラティス・テクノロジー社等の公表情報に基づき taiziii Research 作成
優れている点:「開く(軽量化・相互運用)」と「つなぐ」を一体で解いた
NSKの取り組みの本質は、3D化そのものではない。重い3Dを軽量フォーマットで現場・生産サイドが扱
える状態にし(開く)、その3Dに製造情報を載せて設計と製造が同じデータを参照できるようにした
(つなぐ)点にある。図面という媒体を介した授受を、3D+PMIの直接連携に置き換えたことで、転
記・解釈の手間とミスを減らし、生産準備を短縮する。「開く」と「つなぐ」を別々の機能としてでは
なく、一体の仕組みとして実装したからこそ、工程をまたいだ価値が生まれている。
© 2026 taiziii Research | Confidential
6.2 トヨタ自動車東日本 ― 3Dの一気通貫
もう一社、3Dを工程横断で流す例としてトヨタ自動車東日本を取り上げる。同社は、XVLのWeb3Dを用
いて3Dの指示図を作成し、製造現場で活用している。さらに3D動的シミュレーション(XDS)を用い
て、内製設備の開発プロセスを、計画から設備稼働までの早期運用化につなげている。掲げているのは
「3Dデータの一気通貫 ― 設計から工場への活用」であり、3Dを設計から製造現場まで途切れさせずに流
すデジタルスレッドの実像である。
優れている点:3Dを設計から工場まで「流し切る」
トヨタ自動車東日本の取り組みが示すのは、3Dを一工程で完結させず、設計から製造・設備立上げまで
一気通貫で活用する到達点である。3Dを指示図や動的シミュレーションという「現場が毎日使う形」に
落とし込み、設計の意図を製造現場まで正確に届ける。これが第5章で述べたデジタルスレッドの実像で
あり、3D活用を単なる設計効率化ではなく、ものづくり全体をつなぐ基盤へと押し上げる方向性を示し
ている。
6.3 2社に共通する成功要因
日本精工は「開く・つなぐ」を、トヨタ自動車東日本は「工程横断の一気通貫」を中心に据えており、踏
み込んだ段階は異なる。しかし共通するのは、3Dを「保管する対象」から「設計・製造・保守をつな
ぐ、使える実装」へと転換させたという一点である。軽量3Dフォーマットで現場・取引先が扱える状態
にし(開く)、3Dに製造情報を載せて連携する(つなぐ)。技術の高度さではなく「現場が毎日使い、
工程をまたいで効く」設計が成果を生んでいる。次章では、この転換を自社で進めるための具体的な道筋
を示す。
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07 導入ロードマップと
落とし穴
スモールスタートの順序、優先順位、つまずきポイント
K E Y F I N D I N G S
導入は「対象の棚卸し→開く・移行→構造化・紐付け→3D類似検索・活用」の4段階で進める
全モデルの一律MBD化を狙わず、流用・補修頻度の高い領域からスモールスタートする
典型的なつまずきは、移行での停止、全部一律のMBD化、PLM・紐付けの軽視、土台抜きの生成AI
導入
3D活用は、効率化の先に「設計力の継承」という戦略的価値を見据えて設計する
7.1 4段階のロードマップ
3D設計資産の活用は、一足飛びに完成形を目指すのではなく、段階的に積み上げる。
3D設計資産活用の導入ロードマップ
出所:taiziii Research 作成
Phase 1:対象の棚卸し。どこに、どんな3Dが(あるいは2Dしか)どれだけあるかを把握し、優先領域
を選ぶ。全社全モデルではなく、流用頻度や補修頻度が高く、再利用価値の大きい領域から始める。3D
化・MBD化・移行の方針もここで決める。
Phase 2:開く・移行。対象を中立形式や最新CADに移し、必要なものにPMI/MBDを付与して相互運用
可能にする。重いモデルは軽量フォーマットに変換し、現場・取引先が閲覧できるビューイングを整え
る。第3章のとおり、再利用に効く対象から優先的に扱える化する。
Phase 3:構造化・紐付け。形状とPMIを属性・BOMに整理し、見積・加工実績・発注先などのメタデー
タをPLM・デジタルスレッドで紐づける。第5章で述べたとおり、ここを軽視すると「探せるが使えな
い」状態に陥る。3D活用の価値が最も増える段階である。
Phase 4:3D類似検索・活用。3D形状ベースの類似検索を立ち上げ、流用設計・見積・補修に活用す
る。さらに設計意図・検討経緯のデータ化や、土台の上での生成AI・RAGへと発展させる。
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7.2 典型的な4つのつまずき
3D設計資産活用の落とし穴
① 移行での停止:中立形式に出した、あるいは3Dモデルを作った段階で「3D化した」と錯覚し、解
釈・構造化に進まない。これでは開けても探せず・つながらないままである。② 全部一律のMBD化:過
去の全モデルを完璧にMBD化しようとして頓挫する。再利用価値で優先順位をつける。③ PLM・紐付け
の軽視:3Dだけ整備し、見積・実績やPLMとの連携を怠ると「検索できるが判断に使えない」。④ 土台
抜きの生成AI導入:構造化・紐付けが未整備のままRAGを入れても、根拠を欠いた回答しか返らない。
7.3 まとめ ― 「持つ」から「回す」への転換
本書を通じた主張は一貫している。3D設計資産の活用とは、3Dモデルを作って持つことではなく、「開
けない・探せない・つながらない」という3つの壁を、移行・解釈・ベクトル化・紐付けという技術で順
に取り除き、3Dを実績・知見と結びついた「使える資産」として設計の起点に回し続けることである。
CADやビューアといった個別ツールの優劣ではなく、この一連を設計しきれるかが成否を分ける。
着手にあたっては、全モデルの一律3D化・MBD化という大号令ではなく、再利用価値の高い領域でのス
モールスタートから始め、Phase 1から順に積み上げることを推奨する。そして効率化の先には、設計力
そのものの継承という戦略的価値が控えている。明日からの一歩は、自社のどこに、どれだけの3D(と
2Dのみの資産)があり、そのうち再利用価値が高いのはどの領域かを、まず棚卸しすることである。
taiziii では、事業戦略の立案からシステム設計・開発、そして運用まで、ワンストップでご支援できる体
制を整えております。AI導入支援やコンサルティングをはじめ、幅広い事業領域でお客様の多様な課題解
決に取り組んでいます。本書で扱った3D設計資産の活用についても、「自社のどのモデル群から着手すべ
きか」「3D類似検索や紐付けをどう実装するか」といった具体の検討段階から、お気軽にご相談いただ
けます。
お問い合わせ:https://taiziii.com/contact/
taiziii が提供する判断力の継承サービス SkillRelay(スキルリレー)では、図面やモデルをベクトル化
し、形状で検索できるようにする機能はもちろんのこと、「なぜこの寸法・材質にしたのか」という熟
練設計者の判断の道筋までAIで引き出して構造化し、組織の知見として継承します。3Dを探すこと、そ
の背後にある設計判断を継ぐことを、ひと続きで扱える点に強みを持ちます。
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