W H I T E P A P E R
2 0 2 6 年8 月
歩留まりを
改善する
非量産型のモノづくり現場における
「判断知」を活用した品質改善
Improving Manufacturing Yield:
Leveraging Judgment Knowledge in
Non-Mass-Production Manufacturing
P U B L I S H E D B Y
taiziii Research
Manufacturing DX Desk
© 2026 taiziii Research | Confidential
本書の位置付け
想定読者は、製造業のDX担当者(事業部のDX推進部門、生産技術・製造・品質部門の部長・課長クラ
ス)、なかでも大手企業の中にある「非量産部門」において、・品質の意思決定を担う方に向けて書いて
いる。
歩留まり改善には、確立された標準解があり、本書も前半で扱う。ただ、品質管理の教科書は、その標準
解が成り立つ前提をほとんど書いてこなかった。同じものを繰り返し作る、という規則性だ。条件を標準
化する意味があるのは、その条件が次も来るからである。統計で層別できるのは、同じ条件のデータが十
分たまるからだ。
一品性が高く難易度の高い加工では、この前提が崩れる。同じ条件は二度と来ず、データは数件しかたま
らない。公差ギリギリで通すか止めるかを決めているのは、条件表の数値ではなく、現物を見た人の判
断である。本書の主張はここに尽きる。この層の歩留まりを決めているのは「この条件ならOK/NG」と
いう見極めであり、改善の最後の課題は、その見極めをどう引き出し、どう次の世代へ渡すかにある。
本書は、この見極め、つまりなぜその条件にしたのかという、図面にもデータにも載らない判断の理由
を判断知と呼ぶ。条件は再現できない。だが、その条件を選んだ判断知なら、次の図面にも転用できる。
本書は公開情報および当社の実プロジェクト知見(業界一般化・匿名化済み)に基づく。記載する数値(歩留まり・不良
率・改善効果等)は工程・製品・運用により大きく変動するため、絶対値ではなく相対的な傾向として参照されたい。
目次
1
なぜ歩留まりが利益を左右するのか
三重の損失・直行率・パレート ― 議論の土台
2
量産型モノづくりにおける標準解
検査の限界と、「自工程完結」という原則
3
非量産型モノづくりにおける判断知の重要性
同じ条件は二度と来ない。条件表と現場が食い違う理由
4
歩留まりを決めている「判断知」の正体
5M+1Eの空白と、判断の5つの粒度
5
判断知の継承 ― 引き出し、構造化し、継ぐ
源流は工程ではなく、その工程を決めた判断にある
6
先進事例 ― 山本金属製作所と、その先に残るもの
切削点のデータ監視で防げるもの、なお残るもの
7
導入ロードマップ ― 条件を残し、判断知を残す
進め方、つまずき、最後に残る問い
© 2026 taiziii Research | Confidential
エグゼクティブ・サマリー
5つのキーメッセージ
歩留まり改善の標準解は「検査でなく工程で作り込む」ことにある。ただしその標準解は、同じものを
繰り返し作るという規則性を前提としている。一品・高難度の加工では、歩留まりを決めるのは条件表で
はなく人の判断になる。本書の要点を5つにまとめる。
1
歩留まりは利益に直結する。工程の実力は直行率に出る
不良が出れば、原材料も工数も設備時間も無駄になる。手直しに頼れば歩留まり率の数字は保て
るが、その分の工数は確実に出ていく。見るべきは、手直しなしで一発で良品になった割合、すな
わち直行率だ。問題は、その一発が通るかどうかを何が決めているか、である。
2
検査をいくら厳しくしても歩留まりは上がらない。標準解は「工程で作り込む」ことにある
検査でできるのは、できてしまった不良を見つけることまでだ。発生そのものには手が届かない。
製造条件と品質結果をデータでつなぎ、真因を源流までさかのぼって断ち、不良を生まない工程を
作る。これが確立された標準解であり、本書も前半でこれを扱う。
3
その標準解は「同じものを繰り返し作る」ことを前提にしている。一品・高難度では前提が崩れる
条件を標準化する意味があるのは、その条件が次も来るからだ。統計で層別できるのは、同じ条件
のデータが十分たまるからだ。一品性の高い高難度加工では、同じ条件は二度と来ず、データは数
件しかたまらない。センサーを付けてAutoMLにかけたのに歩留まりが動かなかった現場が多いの
は、努力が足りなかったからではない。前提が違う。
4
この層で歩留まりを決めているのは、「この条件ならOK/NG」を見極める判断である
公差ギリギリを通しにいくか、一度止めて刃物を替えるか。切粉の色と音から熱の入り方を読み、
送りを落とすか、そのまま抜くか。この見極めが直行率を左右する。5M+1Eを使えば要因は漏れ
なく洗い出せるが、そのうちMan(人)の中身、つまりどう判断しているかは空白のまま残る。歩
留まり改善の本丸は、この空白にある。
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5
AIは判断しない。判断知を引き出し、条件付きルールとして構造化し、次の世代へ継ぐ
目指すのは、AIに「通すか止めるか」を決めさせることではない。ベテランがなぜその条件にした
のかを引き出し、誰のどの条件下での判断かを保ったまま構造化し、例外は例外として分けて残
す。AIは判定を代行せず、材料を差し出し、問い返し、継承を助ける裏方に徹する。「検査でなく
工程で、現象でなく源流で」。そして、条件でなく判断知で。
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01 なぜ歩留まりが利益を左右す
るのか
三重の損失・直行率・パレート ― 議
論の土台
K E Y F I N D I N G S
不良が出ると、原材料・投入工数・設備稼働時間がそのまま無駄になり、利益を直接削る
歩留まり率は良品数÷投入数。手直しに頼れば率は保てるが、工数とコストは膨らむ
工程そのものの実力は、一発で良品になった割合、すなわち直行率に出る
1.1 不良は三重に損をする
歩留まりが収益に直結するのは、不良が三重に損を重ねるからだ。まず、その製品に投入した原材料が無
駄になる。次に、そこまでに費やした加工工数と設備稼働時間が消える。最後に、手直しするなら追加の
工数が、廃棄するなら廃棄コストがかかる。作れば作るほど損が積み上がる。歩留まりが数ポイント動
くだけで工程の利益が大きく変わるのは、このためだ。
一品・高難度の加工では、この損がさらに重くなる。素材は高価で、リードタイムは長い。一個失敗すれ
ば、納期そのものが飛ぶ。作り直しの利かない一点物なら、もう一個作って取り返す、という手も使えな
い。
出所:taiziii Research 作成
1.2 歩留まり率と直行率
この二つは、別のものを測っている。歩留まり率は良品数÷投入数で計算するが、この良品には手直しや
再加工を経て良品になったものも含まれる。つまり、手直しを頑張れば歩留まり率は高く保てる。ただ、
手直しには工数がかかり、その分のコストは確実に出ていく。
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見るべきなのは、手直しなしで一発で良品になった割合、すなわち直行率だ。その工程がどれだけ不良を
出さずに済んでいるか。工程の実力はここに出る。
ここから先、本書はひとつの問いを追う。その一発が通るかどうかを、何が決めているのか。量産ライン
なら、答えは標準化された条件だ。一品・高難度の現場では、答えが変わる。
1.3 どの不良から手をつけるか
やみくもに全部の不良を追うのは効率が悪い。まず不良を種類別・工程別に集計し、どれが最も損失を
生んでいるかを見極める。たいていは少数の項目が損失の大半を占める。パレート分析で重点を絞り、最
も効く不良をひとつ選んで真因を突き止める。改善に回せる人手は限られているので、この絞り込みで成
果がほぼ決まる。
本書の立場:測るだけでは上がらない。工程で作り込み、最後は判断知で決まる
歩留まりを可視化するダッシュボードを入れて、そこで安心してしまう会社は多い。だが、数字を眺め
ても不良は減らない。真因を突き止め、それを生まない工程を作って初めて歩留まりは上がる。これが
標準解だ(第2章)。
本書はそこで止まらない。標準解が効かない領域では、歩留まりを決めているのは条件ではなく判断知
であり、それをどう残すかが最後の課題になる。第3章からは、その領域に踏み込む。
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02 標準解 ― 検査では上がらな
い、工程で作り込む
検査の限界と、「品質は工程で作り
込む」という原則
K E Y F I N D I N G S
検査でできるのは、出てしまった不良を見つけることまで。発生そのものは1個も減らない
「品質は工程で作り込む」は古くからの原則。製造条件を管理し、不良が出る前に手を打つ
実装は「条件と結果をセットで取り、要因を層別し、真因を源流までさかのぼって断つ」
これが確立された標準解である。ただし、その成立には静かな前提が置かれている(第3章)
2.1 なぜ検査を強化しても不良は減らないのか
歩留まりが悪いとき、現場がまず考えるのは検査の強化だ。ここに誤解がある。検査とは、できあがった
製品が要求を満たしているかを確認し、合否を判定する活動である。すでに出てしまった不良を見つける
ことはできても、不良そのものを減らすことはできない。
検査を厳しくすれば、不良の流出は防げる。だが発生は1個も減らない。出てしまった不良は手直しか廃
棄に回り、そのコストは出ていく。
出所:taiziii Research 作成
2.2 「自工程完結」という標準解
これに対する答えが、品質管理で古くから言われてきた「自工程完結」という原則だ。各工程で、そもそ
も不良を出さない。品質を左右する加工条件そのものを管理し、不良が出る前に手を打つ。一人ひとりが
自分の工程で品質をやり切り、不良を後工程に流さない(自工程完結)。
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データとデジタル技術による実装も、方法論としては固まっている。製造条件(設備の設定値、材料ロッ
ト、作業者、加工条件、測定値、温湿度など)と品質結果をセットで取得して紐づける。統計や機械学習
で、どの条件が不良と相関するかを層別する。なぜなぜ分析で真因を源流の工程までさかのぼり、そこで
断つ。最後に、良品が出る条件を標準として定め、逸脱を監視する歯止めを設ける。
全数検査は、歩留まり対策にはならない
不良が多いからといって全数検査を入れても、流出を防ぐだけで発生は止まらない。検査工数が膨らむ
分、コストはむしろ悪化する。全数検査が要るのは、重要保安部品のように一個も流出させられない場
合だけだ。それは流出対策であって、歩留まり対策ではない。検査の強化に投資する前に、なぜその不
良が出るのかを工程までさかのぼって問う。
2.3 標準解の射程
以上が歩留まり改善の標準解だ。正しく、有効で、多くの量産現場が実際に成果を上げてきた。本書もこ
れを否定しない。
ただ、この標準解が成り立つには条件がある。品質管理の教科書は、その条件をほとんど書いてこなかっ
た。次章でそれを書き出す。
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03 その標準解が効かない世界 ―
一品・高難度の壁
同じ条件は二度と来ない。条件表と
現場が食い違う理由
K E Y F I N D I N G S
「条件を標準化する」が成立するのは、その条件が次も来るから。一品では同じ条件は二度と来な
い
「データで層別する」が成立するのは、同種データが十分たまるから。高難度品では数件しかない
公差ギリギリで通すか止めるかを決めているのは、現物を見た人の判断である
条件表(管理側のTO-BE)と現場の実際(AS-IS)は、往々にして食い違っている
3.1 標準解が置いている前提
「条件を標準化して管理すれば不良は減る」。この命題が成り立つのは、ある前提のもとでだけだ。同じ
ものを、繰り返し作るという前提である。
条件を標準化する意味があるのは、その条件が次も来るからだ。統計で層別して相関を見つけられるの
は、同じ条件のデータが十分たまるからだ。工程能力指数を計算できるのは、同一工程を何百回と繰り返
すからだ。量産とは、この規則性が保証された世界を指す。だから標準解が効く。
維持設計や特殊部品、補修、試作といった一品性の高い領域では、この前提が崩れる。図面が一枚変われ
ば材料も形状も公差の厳しさも変わり、同じ条件は二度と来ない。同種のデータは数件しかたまらないの
で、統計が立たない。標準条件表を作っても、次の図面では使えない。
条件データを取って分析する ― 試して、動かなかった現場へ
センサーを付けて加工条件を記録し、AutoMLにもかけてみた。だが有意な相関は出ず、出たとしても次
の案件では再現しない。高難度加工の現場で、この徒労に心当たりのある方がいるはずだ。
これは、取り組みが甘かったからではない。統計的手法が要求する繰り返しが、この領域には構造的に
存在しない。だからツールを乗り換えても結果は変わらない。問題は分析手法の側ではなく、分析対象
の側にある。
3.2 一発で通るかを決めているもの
では、この領域で直行率を決めているのは何か。現場に入ると、答えははっきりしている。「この条件で
いけるか」を、その場で見極める判断だ。
公差ギリギリの寸法を、この刃物の当たりで通しにいくか。一度止めて刃を替えるか。切粉の出方と色か
ら熱の入り方を読み、送りを落とすか、そのまま抜くか。材料の効きが図面の想定と違うと感じたとき、
加工順序を組み替えるか。どれも条件表に数値としては書かれていない。そして読み違えれば、その場で
公差を外す。
© 2026 taiziii Research | Confidential
冒頭に挙げた、同じ図面・同じNCプログラムなのに担当者で結果が変わるという現象の正体は、これ
だ。担当者ごとに変わっていたのは、この見極めだった。この層の歩留まりは、工程で作り込まれる前
に、判断で作り込まれている。
3.3 条件表に書いてあることと、現場がやっていること
やっかいなのは、その先だ。この二つは、しばしば一致しない。
ある精密切削加工メーカーで基幹システムを設計したときのことである。管理層が共有した前提は明快だ
った。「工具は、使うたびに組み立て、使い終わったら分解して返却する」。システムもその前提で設計
されかけた。
ところが現場を丁寧に見ると、実態はまるで違った。使い終えた工具は、あえてバラさずそのまま保管
し、次に同じ構成が要るときに再利用していた。段取り時間を削るために、現場が長い年月をかけて編み
出した知恵である。管理層の認識(TO-BE)と現場の実際(AS-IS)が食い違っていて、しかも双方と
も、そのことに気づいていなかった。前提のまま作っていれば、動きはするが現場と噛み合わないシステ
ムを納めていたはずだ。
標準条件を守らせるほど、歩留まりが落ちることがある
ここを確かめずに始まる改善活動が多い。標準条件を守らせる施策は、その標準条件が現場の実態を正
しく写し取れていて初めて機能する。写し取れていなければ、守らせるほど現場は本来のやり方から引
き剥がされ、かえって歩留まりは落ちる。
では、なぜ実態が写し取れないのか。現場が隠しているわけではない。理由はもっと単純で、それだけ
に厄介だ。判断が体に染み込みすぎていて、本人が書くほどのことだと思っていない。工程フローは数
行で書ける。その数行の裏に、何十年分の判断が詰まっている。
3.4 一般的なDXツールは、ここで止まる
SPC(統計的工程管理)は、繰り返しのある工程の変動を捉える道具だ。MESは、決められた条件が守ら
れたかを記録する。AutoMLは、十分な件数のデータから相関を抽出する。IoTセンサーは、測れる物理量
を測る。
どれも優秀な道具で、いずれも繰り返しがあり、条件が書き出せていることを前提にしている。
一品・高難度の領域に足りないのは、ツールの性能ではない。その現場の判断が、まだ言葉になっていな
い。ここが埋まらないかぎり、どのツールに乗り換えても、改善は同じ場所で止まる。
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04 歩留まりを決めている「判断」の
正体
5M+1Eの空白と、判断の5つの
粒度
K E Y F I N D I N G S
5M+1Eで要因は漏れなく洗い出せるが、Man(人)の中身、つまりどう判断しているかは空白のま
ま残る
判断には5つの粒度があり、マニュアル化できるのは明示ルールと条件付きルールの2つだけ
残る3つ(経験則・パターン認識・トレードオフ判断)は本人ですら言語化できない
知識(What to do)は引き継げても、判断力(How to decide)は引き継がれずに失われる
4.1 5M+1Eの「Man」には、何が入っているのか
不良の要因を体系的に洗い出すフレームとして、5M+1Eが広く使われる。Man(人)、Machine(設
備)、Material(材料)、Method(方法)、Measurement(測定)、Environment(環境)。要因の抜
け漏れを防ぐ枠組みとして、これは有効だ。
出所:品質管理の一般的なフレーム(5M+1E)に基づき taiziii Research 作成
ただ、この枠組みには空白がある。Machine、Material、Measurement、Environmentは、いずれも測
れる。Methodは書ける。ところがMan(人)だけは、実務上たいてい「作業者A/作業者B」というラベ
ルで処理される。層別して作業者Aのとき不良が多いと分かったところで、そこから先へ進めない。
知りたいのはその先だ。作業者Bは、あの場面で何を見て、どう判断したのか。Manという箱に入ってい
るのは、判断である。5M+1Eには、その箱を開ける手立てがない。一品・高難度の歩留まりがこの空白
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で決まっているのだとすれば、私たちはいちばん重要な箱を閉じたまま要因分析をしていることになる。
4.2 判断には5つの粒度がある
判断を残そう、とだけ言っても話は前に進まない。判断をひとかたまりに扱っているからだ。実際には、
判断は次の5つの粒度に分解できる。そして粒度ごとに、残せるかどうかがまるで違う。
粒度
性質
高難度加工での例
文書化
明示ルール
数値閾値・Yes/No
この材質は切削速度◯◯以下
できる
条件付きルール
If-Then-Else
公差が±0.01かつ深物なら、荒と仕上
げを分ける
できる
ヒューリスティック
経験則・傾向
この材料は午後の熱で寸法が動きやす
い
難しい
パターン認識
言語化しにくい直感
切粉の色と音で「この刃はもう危な
い」と分かる
できない
トレードオフ判断
二律背反の重み付け
納期と公差、どちらをどこまで優先し
て攻めるか
できない
マニュアル化・標準作業書化が容易なのは、上の2つだけ。下の3つは、本人に聞いても「なんとなく」としか返ってこな
いことが多い。
標準化の限界は、この表の上と下で分かれる。標準作業書を整備しても歩留まりの個人差が消えないの
は、書けるものだけを書いたからだ。書けなかった3つ、とりわけ切粉と音で刃の限界を読むパターン認
識と、納期と公差を天秤にかけるトレードオフ判断。直行率を左右していたのは、そちらだった。
4.3 知識は引き継げる。判断力は引き継がれない
継承の対象には、二つの層がある。
ひとつは知識(What to do)、つまり何をするかだ。手順、条件値、規格、チェックリスト。これは文
書化でき、教育でき、システムにも載せられる。多くの企業が「技能伝承」と呼んでいるのは、たいてい
この層である。
もうひとつが判断力(How to decide)、つまりどう決めるか。例外に直面したとき、教科書どおりにい
かない現物を前にしたとき、何を根拠に、何を捨てて、どう決めるか。この層は、手順書のどこにも書か
れていない。そして一品・高難度の歩留まりを決めているのは、こちらの層だ。
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判断が消えると、何が起きるか
ベテランが一人抜けたあと、現場に起きるのは、不良率が少し上がるといった穏やかな変化ではない。
もっと具体的で、もっと痛い。
まず、見積を外す。この形状の難所が読めず、工数を過小に見積もる。次に、立ち上げでつまずく。初
品が通らず、トライを何度も繰り返す。やがて手直しが常態化する。一発で通らないので、後工程で帳
尻を合わせるようになる。最後に、攻めなくなる。判断できないから安全側に倒し、リードタイムもコ
ストも膨らむ。
歩留まりの数字に表れるころには、失われた判断はもう回収できない。
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05 判断知の継承 ― 引き出し、構
造化し、継ぐ
源流は工程ではなく、その工程を決
めた判断にある
K E Y F I N D I N G S
条件と結果をセットで取るだけでは足りない。「なぜその条件にしたか」をセットで取る
判断知は、誰のどの条件下での判断かを保ったまま、条件付きルールへ構造化する
例外は無理に一般化せず、例外として分けて残す。統合・一本化は判断を殺す
源流管理でさかのぼる先は、上流の工程よりもう一段手前、その工程を決めた判断である
5.1 「条件と結果をセットで取る」の、その先
標準解の技術スタックは、こうだった。①データ収集、②要因分析、③真因特定、④条件最適化、⑤工
程で作り込む。この流れ自体は正しく、繰り返しのある工程では今も有効だ。
出所:taiziii Research 作成
このスタックで最大の壁は①だ、とよく言われる。多くの現場が、不良の結果は記録していても、そのと
きの条件を記録していないからだ。それはそのとおりである。ただ、一品・高難度の領域には、もう一段
深い欠落がある。条件を完璧に記録しても、なぜその条件にしたのかが残らない。
送りを0.05に落とした、という事実は記録できる。だが、なぜ落としたのか。切粉が変色し始めたからな
のか。材料の効きが図面の想定と違ったからなのか。この公差では逃げがないと踏んだからなのか。そこ
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は記録に残らない。そして次に似た図面が来たとき、後任が本当に参照したいのは、まさにその「なぜ」
の方だ。
条件は再現できない。判断知は転用できる。一品の世界で継承すべきものが判断知なのは、このためだ。
5.2 引き出す ― 「なぜ」を聞く
では、どう残すか。第一歩は、判断が起きたその場で「なぜ」を引き出すことだ。送りをいくつにしたか
ではなく、なぜそう決めたか、何を見てそう思ったか、もし材料がもう少し粘かったらどう変えたかを問
う。
AIの出番はここだ。AIは、通すか止めるかを判断しない。判断の場面を捉え、本人が意識していない根拠
を問いかけて引き出し、断片を分類し、矛盾や抜けを問い返す。やるのはそこまでである。
パターン認識やトレードオフ判断を、本人が自発的に語ることはまずない。ところが、具体的な一場面に
ついて「なぜ」を重ねて聞かれると、人は驚くほど言葉にできる。引き出しとは、この性質を利用する作
業である。
5.3 構造化する ― 帰属を保ち、例外を分ける
引き出した判断知は、そのままでは断片にすぎない。使える形にするには、条件付きルール(If-Then)
へ構造化する。「材質がこれで、公差がこの範囲で、刃物がこの状態なら、こう判断する」。第4章の粒
度でいえば、言語化できなかった層を、できるかぎり条件付きルールの側へ翻訳していく作業になる。
ここには鉄則が二つある。
ひとつは、帰属を保つこと。誰の、どの条件下での判断かを必ず添える。複数のベテランの判断を平均し
たり、一本の正解に統合したりしてはならない。判断は、それが下された状況とセットでしか意味を持た
ない。状況を剥がした瞬間に使えなくなる。
もうひとつは、例外を例外として分けること。無理に一般化すると、当たり障りのない一般論しか残らな
い。この場合だけは違う、という例外にこそ熟練が出る。
運用の型と、判断の型
組織が型を作るとき、そこには二つの型がある。
運用の型は、誰がやっても同じ結果になる手順の型だ。ここではAIが効率化を担い、RPAや自動化が効
く。多くの企業は、この型を作ったところで止まる。
判断の型は違う。例外に直面したとき、熟練者が何を見て、何を捨てて、どう決めるか。その型を残
す。ここでAIは判断せず、引き出し、構造化し、継承する役に回る。
「品質は工程で作り込む」が運用の型なら、判断知の継承は判断の型にあたる。
5.4 源流管理を、もう一段さかのぼる
標準解には「源流管理」という優れた考え方がある。不良が見つかった工程で対症療法を打つのではな
く、その不良がどの工程で生まれたかを上流までさかのぼり、発生源で断つ。もぐらたたきをやめる、と
いう考え方だ。
© 2026 taiziii Research | Confidential
出所:源流管理の一般的な考え方に基づき taiziii Research 作成
本書は、この「さかのぼる」を、もう一段だけ延ばすことを提案したい。不良の源流は、上流の工程にあ
るのではない。上流の判断にある。
寸法不良の源流をさかのぼると、数工程前の加工条件に行き着く。だが、そこで止まってはいけない。そ
の加工条件は、誰かがそう決めたものだからだ。なぜその送りにしたのか。なぜその順序で削ることにし
たのか。なぜその基準面を取ったのか。源流はそこにある。
工程までさかのぼって条件を直せば、その一件は止まる。判断までさかのぼって残せば、次の一件が起き
なくなる。これが源流管理の最終形だ。
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06 先進事例 ― 山本金属製作所と、
その先に残るもの
切削点のデータ監視で防げるも
の、なお残るもの
K E Y F I N D I N G S
山本金属製作所は、切削点近傍のデータを監視する自社開発AIで工具状態を数値化した
工具交換時期が明確化し、不良品の発生が減少。不良が出る前に、工程の側で防いだ
データ化できたのは、判断の粒度でいえば「明示ルール/条件付きルール」の層である
同じ波形でも「この材料なら攻める/この公差では止める」というトレードオフは人に残る
ここまでの議論を、実在の取り組みに照らしてみたい。経済産業省の中小企業AI導入の事例として取り上
げられた、山本金属製作所である。切削加工という、本書がまさに扱う領域での実装だ。
出所:経済産業省「中小企業におけるAI導入の活用・促進」等の公表情報に基づき taiziii Research 作成
6.1 工具の状態が見えなかった現場
同社の課題は、工具の摩耗・破損による不良品の発生と、機械故障だった。切削加工では、工具は使うほ
どに摩耗し、限界を超えると破損する。摩耗・破損した工具で加工すれば、寸法や面の品質が狂い、不良
品になる。
しかし従来、工具がいまどんな状態にあるかは目に見えなかった。不良が出てから、工具が傷んでいたと
気づく。交換時期は経験と勘で判断され、機械の監視には人手が張り付いていた。
© 2026 taiziii Research | Confidential
6.2 切削点をデータで監視し、不良を未然に防ぐ
同社が取り組んだのは、切削点近傍のデータなどを監視する自社開発のAIモデルの導入である。加工がお
こなわれる切削点の近くでデータを捉え、工具の状態を数値として可視化する。これにより工具の摩耗・
破損の兆候を、不良が出る前に捉えられるようになった。工具交換時期が明確になり、不良品の発生が減
った。人が工作機械に張り付いて監視する必要もなくなり、生産付加価値額は15%増加したと報告されて
いる。
出所:公表情報をもとにした概念図。taiziii Research 作成
仕組みをかみ砕くと、こうなる。新品の工具で加工しているとき、センサーが捉える振動や負荷の波形は
安定している。工具の摩耗が進むと、その波形に乱れや振れの拡大が現れる。正常な加工時の波形を基準
にして、いまの加工がそこからどれだけ外れているかを見れば、工具の状態を推定できる。本シリーズの
予知保全編で述べた「正常を学習して逸脱を捉える」考え方を、工具という対象に当てはめたものだ。
波形の変化から、そろそろ危ないを先に捉える。「品質は工程で作り込む」(第2章)の、模範的な実装
である。
6.3 この事例が到達したところと、その先
同社がデータ化に成功したのは、判断の粒度でいえばどの層だったのか。
工具の摩耗という現象は、物理量として測れる。そして「波形がこの範囲を外れたら交換する」という形
は、明示ルールや条件付きルールとして書き下せる。第4章の表でいえば、上の2段だ。つまり同社は、
判断のうち構造化しやすい層を、見事に構造化した。ベテランが音でなんとなく分かっていたものを、条
件付きルールへ翻訳したことになる。第5章で述べた構造化を、切削の現場でやり切った例だ。
その先には、まだ構造化されていない層が残る。同じ波形の乱れを前にして、この材料・この公差なら、
もう一個は攻めて抜くのか、この公差では逃げがない、いま止めるのか。この重み付けは波形に現れな
© 2026 taiziii Research | Confidential
い。納期と素材の希少性、公差の厳しさ、後工程の余裕を天秤にかけるトレードオフ判断であり、第4章
の表でいえば最下段にあたる。
データ化できる判断を出し切ったあとに、残るもの
この事例が優れているのは、工程の条件(工具状態)を管理して、不良を未然に防いだ点にある。自社
開発のAIで内製したことも、同じ規模の製造業には現実的な参考になる。
そして、切削という領域でここまで構造化を進めた事例だからこそ、その先に何が残るかもはっきりす
る。AIは工具状態という材料を差し出す。それを受けて攻めるか止めるかを決めているのは、いまも人
だ。
データ化できる判断を出し切ったとき、最後に残るのが、データ化できない判断なのである。
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07 導入ロードマップ ― 条件を残し、判
断知を残す
進め方、つまずき、最後に
残る問い
K E Y F I N D I N G S
進め方は「重点を絞る → 条件と判断知をセットで残す → 判断知を構造化する → 品質を保証す
る」
繰り返しのある工程では標準解(条件の作り込み)を、一品・高難度では判断知の継承を軸に置く
典型的なつまずきは、検査強化への逃避、判断の未記録、無理な一般化、歯止めの不在
ツール・データ・標準をどれだけ整えても、最後に残るのは「どう決めるか」という判断である
7.1 4段階のロードマップ
歩留まり改善は、一足飛びに全工程を変えようとせず、重点を絞って段階的に進める。
出所:taiziii Research 作成
Phase 1:重点を絞る。不良を種類別・工程別に集計し、パレート分析で最も損失の大きい不良を絞り込
む。直行率を測り、工程の実力を把握する。ここで同時に見極めたいことがある。その不良は「繰り返し
のある工程」で起きているのか、「一品・高難度の工程」で起きているのか。この見極めが、以降の打ち
手を分ける。
Phase 2:条件と判断知をセットで残す。繰り返しのある工程では、製造条件と品質結果を紐づけて取得
する(標準解)。一品・高難度の工程では、それに加えて「なぜその条件にしたか」を、判断が起きたそ
の場で残し始める。標準解と本書が分かれるのは、ここだ。
Phase 3:構造化する。繰り返し工程では、相関を層別し、なぜなぜ分析で真因を源流までさかのぼる。
一品・高難度では、引き出した判断知を帰属ごと条件付きルールへ翻訳し、例外は例外として分けて残
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す。
Phase 4:品質を保証する。条件については、標準化と逸脱監視の歯止めを設ける。判断知については、
残したものが本当に使えるかを検証し、更新し続ける。後任がその判断知を参照して、実際に一発で通せ
たか。通せなかったなら、何が足りなかったか。これが判断知の品質保証である。
典型的な4つのつまずき
① 検査強化への逃避。歩留まりが悪いと検査を厳しくして対処した気になるが、不良の発生は減らない
(第2章)。
② 判断の未記録。条件は記録しても「なぜその条件にしたか」を残さず、次の案件に転用できない(第5
章)。
③ 無理な一般化。複数のベテランの判断を平均して一本の正解に統合すると、当たり障りのない一般論
しか残らない。例外は分けて残す(第5章)。
④ 歯止めの不在。改善しても標準化・監視をせず、元の状態に戻る。
7.2 まとめ ― 検査でなく工程で、現象でなく源流で、そして条件でなく判断知で
本書の主張は、三段になる。
第一に、検査でなく工程で。検査は流出を止めるが、発生は止めない。製造条件を管理し、不良を生まな
い工程を作る。これが標準解だ。第二に、現象でなく源流で。不良が生まれた工程までさかのぼって断
つ。
そして第三に、本書が最も伝えたい転換がある。条件でなく、判断知で。
繰り返しのある量産工程なら、条件を揃えれば歩留まりは戻る。だが、一品性が高く難易度の高い加工
では、同じ条件は二度と来ない。公差ギリギリで通すか止めるか。この刃でもう一個攻めるか、替える
か。その見極めが、一発で通るかどうかを決めている。
そして、その見極めは、標準条件表にも、検査データにも、SPCのチャートにも載らない。ツールを入
れ、データを貯め、手順を標準化しても、この層だけは埋まらずに残る。残るだけならまだいい。言語化
されないまま、ベテランの退職とともに、静かに現場から消えていく。
だから、歩留まり改善がほんとうに解くべき最後の問いは、どの条件が最適か、ではない。その条件を
選んだ判断を、どうやって次の世代へ渡すかである。AIはこの判断を代行しない。ベテランから判断知を
引き出し、帰属を保って構造化し、例外を分けて残し、検証する。役割はそこまでだ。
着手にあたっては、すべての不良を一度に追わないことを勧めたい。明日からの一歩は、二つある。ひと
つは、最も損失の大きい不良について、「それが出たとき、どんな製造条件だったか」を記録し始めるこ
と。もうひとつは、最も難しい一品について、ベテランが「なぜその条件にしたのか」を、一案件ずつ言
葉にして残し始めることだ。
前者がなければ、改善は始まらない。後者がなければ、その改善は一代限りで終わる。
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taiziii が提供する判断力の継承サービス SkillRelay(スキルリレー)では、標準条件表にも検査データ
にも載らない「この条件でいけるか」という熟練者の見極めを、なぜそう判断したのかという理由ごと
AIで引き出し、帰属を保ったまま条件付きルールへ構造化し、組織の判断知として継承します。判断を
平均したり、一本の正解に統合したりはしません。例外は例外として残します。AIは判断を代行せず、
引き出し、分類し、問い返し、継承を助ける裏方に徹します。「品質は工程で作り込む」の、その先に
ある判断知の継承までを、ひと続きで扱える点に強みを持ちます。
詳細:https://taiziii.com/skillrelay/