技術ブログ SAP投資を成果に変えるROI最大化戦略|「効果が見えない」を脱却する具体的ステップ
SAP投資を成果に変えるROI最大化戦略|「効果が見えない」を脱却する具体的ステップ

SAP投資を成果に変えるROI最大化戦略|「効果が見えない」を脱却する具体的ステップ

「数億円規模の大きな投資をしたのに、思ったほどの効果が出ているのかわからない…」
多くの情報システム部門の担当者様や、プロジェクトを承認した経営層の方が、SAPの導入・運用後にこのような悩みに直面しています。SAPは企業の経営基幹を支える非常に強力なシステムですが、その効果、すなわちROI(投資対効果)が見えづらく、成果を実感できないケースも少なくありません。

もしあなたが「SAPに投じたコストを、どうすれば明確な成果として説明できるのか?」とお悩みなら、この記事が解決のヒントとなるかもしれません。なぜなら、SAPのROIは単なる結果ではなく、適切なフレームワークを用いて「測定」し、「最大化」していくことができるからです。

この記事では、まずSAP導入のROIがなぜ見えにくくなるのか、その根本原因を解説します。その上で、ROIを数値化する具体的なフレームワーク、成果を最大化するための実践的なアプローチ、そして最も重要な「経営層への説明の仕方」までを網羅的にご紹介します。

この記事を読み終える頃には、「導入したのに効果がわからない」という漠然とした不安を払拭し、SAP投資を企業の成長エンジンへと変えるための、明確な道筋を掴むための一助となるでしょう。

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ROIが測りにくい理由

SAPのROIに関する議論が複雑になりがちなのは、その効果が単純な計算式だけでは測れない多面的な性質を持つからです。多くの企業が、投資価値の可視化という壁にぶつかっています。

「導入したけど効果が見えない…」現場の声

プロジェクトが無事に完了し、システムが稼働し始めると、現場と経営層の間で「成功」の定義にズレが生じることがよくあります。この認識のギャップこそが、ROIを見えにくくする最初のつまずきです。

「システムは問題なく動いています。日々の業務は回っていますよ」

「初期投資の金額はわかるけど、業務がどれだけ効率化されたかなんて、どうやって数字にすればいいんだ…」

現場は「システムが技術的に稼働していること」を成功と捉えがちです。しかし、経営層が求めているのはその先の「事業上の便益」です。このズレは、専門家の間では「オペレーショナルには成功しているが、戦略的には失敗している」危険なグレーゾーンとして知られています。 ある調査では、自社のERP導入を90%以上の組織が「成功」と見なしている一方で、ガートナーの分析では、ERPプロジェクトの55%から75%が当初のビジネス目標を達成できていないと指摘されています。 つまり、多くの企業で「動いてはいるが、儲かってはいない」状態が静かに進行しているのです。

SAP投資がブラックボックス化する背景

なぜ、SAPが生み出す価値はこれほどまでに見えにくくなってしまうのでしょうか。その背景には、効果の分散と、導入後の活用度という2つの組織的な課題が潜んでいます。

まず、SAPは会計、販売、生産、人事など、企業の複数部門にまたがって導入されるため、その効果が特定の部門だけでなく、組織全体に分散して現れます。例えば、販売部門の業務効率化が、結果として経理部門の請求処理の迅速化につながる、といった具合です。それぞれの部門のKPIだけを見ていては、投資の全体像を捉えることは困難です。

さらに深刻なのが、導入後の「活用不足」です。高機能なシステムを導入したにもかかわらず、現場の従業員がその機能を十分に使いこなせていなければ、期待した効果は生まれません。適切なトレーニングや、新しい業務プロセスへの移行を促すチェンジマネジメントが不十分な場合、せっかくの投資が宝の持ち腐れとなり、ROIは限りなくゼロに近づいてしまうのです。

ROI測定のフレームワーク

SAP投資の真の価値を明らかにするためには、目に見える数字だけでなく、数字にしにくい効果も含めて多角的に評価する戦略的なフレームワークが必要です。ここでは、そのための具体的な方法を解説します。

定量的効果の算出方法

ROIを語る上で最も基本となるのが、金額換算できる「定量的効果」です。業務効率化やコスト削減といった効果を、具体的な人件費やキャッシュフロー改善額として算出します。

SAP導入によって得られる定量的な便益は、多岐にわたります。例えば、以下のような項目を金額に換算していくことで、リターンを具体的に示すことができます。

  • 業務時間削減を人件費に換算: 手作業で行っていたデータ入力やレポート作成が自動化されれば、その分の業務時間を削減できます。ある調査では、SAPの活用により業務部門の生産性が平均10%向上し、これは年間865,400ドル相当の人件費削減効果に値すると報告されています。
  • 在庫削減をキャッシュフロー改善に換算: 正確な需要予測や在庫管理が可能になることで、不要な在庫を抱えるリスクが減ります。在庫コストの削減はERP導入の一般的な効果の一つであり、91%の組織がその便益を実感しているというデータもあります。 削減された在庫額は、そのまま企業のキャッシュフロー改善に直結します。
  • ITコストの削減: サーバー運用コストや保守費用も削減対象です。ある調査では、ERP導入企業の40%がITコストの削減を実感しており、S/4HANA導入後3年以内に運用コストが平均10%削減されるとの報告もあります。
  • 売上・利益の向上: 新製品の市場投入までの時間短縮や、データ分析に基づく新たな収益機会の創出も期待できます。事実、SAP BTPとS/4HANA Cloudの活用により、年間平均112万ドルの純収益増がもたらされたという調査結果もあります。(出典:NTT DATA Business Solutions

これらの数値を積み上げていくことで、投資に対するリターンの大きさを具体的に示すことが可能になります。

定性的効果の評価方法

金額換算は難しいものの、企業の競争力を長期的に支える「定性的効果」もROIの重要な構成要素です。これらを言語化し、戦略的な価値として評価することが求められます。

定性的効果は、直接的な利益には結びつかなくても、企業の成長基盤を強固にする上で不可欠な要素です。

  • データ統合による意思決定の迅速化・高度化: リアルタイムで正確な経営データにアクセスできるようになり、経営層はより的確な意思決定を迅速に下せるようになります。
  • 監査対応力の強化・リスク低減: 業務プロセスが標準化され、統制が取れることで、内部統制や外部監査への対応力が向上し、コンプライアンスリスクを低減できます。
  • ビジネスアジリティの向上: 市場の変化や新たなビジネスチャンスに対し、迅速かつ柔軟に対応できる経営基盤が構築されます。
  • 従業員満足度の向上: 単純作業や手作業が削減されることで、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになり、仕事への満足度やエンゲージメントが向上します。

これらの効果は、「なぜSAPへの投資が必要だったのか」という戦略的な意義を語る上で、強力な根拠となります。

ROIを最大化する実践アプローチ

ROIは、プロジェクトが終わった後に測定するだけのものではありません。プロジェクトの計画段階から明確な目標を設定し、導入後も継続的にその効果をモニタリングする仕組みを構築することが、投資効果を最大化する鍵となります。

プロジェクト計画段階でROI指標を設定する

多くの失敗プロジェクトに共通するのが、「明確なビジネス目標の欠如」です。導入に着手する前に、「何を」「どれだけ」改善するのかを具体的に定義することが、成功への第一歩です。

「業務プロセスを効率化する」といった曖昧な目標ではなく、「月次決算にかかる日数を5営業日短縮する」「在庫保有コストを15%削減する」といった、具体的で測定可能なKPI(重要業績評価指標)を設定することが不可欠です。

その際に有効なのが、「バランススコアカード(BSC)」という経営管理手法の応用です。これは、企業のパフォーマンスを「財務」「顧客」「内部プロセス」「学習と成長」という4つの視点から評価するもので(出典:Investopedia)、SAPプロジェクトの目標設定に適用することで、投資の価値を包括的に捉えることができます。

BSCの視点 戦略目標の例 対応するSAPの便益 KPIの例
財務の視点 収益性の向上 運用コストの削減、決算処理の早期化 TCO削減率(%)、月次決算所要日数
顧客の視点 顧客満足度の向上 正確な納期回答、顧客対応の迅速化 納期遵守率(%)、顧客満足度スコア
内部プロセスの視点 サプライチェーンの最適化 在庫回転率の向上、手作業プロセスの自動化 在庫削減額、自動化されたプロセスの割合(%)
学習と成長の視点 データ駆動型文化の醸成 リアルタイム分析ツールへのアクセス向上 分析ツールのユーザー導入率(%)

実際に、こうした包括的なフレームワークで進捗を追跡する組織は、そうでない組織に比べて成功基準の達成率が約2倍になるという調査結果もあります。

定期的に効果をモニタリングする仕組み

一度設定したKPIは、飾り物にしては意味がありません。定期的に進捗を測定し、計画と実績のギャップを分析し、改善のアクションにつなげるPDCAサイクルを回す仕組みが不可欠です。

そのための強力なツールとなりうるのが、主要なKPIの動向を一覧できる「ROIダッシュボード」です。このダッシュボードを経営会議などで定期的にレビューするサイクルを確立することで、ROIの状況を全社で共有し、必要な打ち手をタイムリーに講じることができます。

優れたROIダッシュボードは、以下の原則に基づいて設計されます。(出典:Improvado

  • 目的の明確化: 何を監視したいのか(例:コスト削減効果の可視化)が明確であること。
  • 視覚的な明瞭性: グラフなどを活用し、重要なメッセージが一目でわかること。
  • インタラクティブ性: 経営層が関心のある領域を深掘りできること。

この仕組みを通じて、ROIの管理は「過去を評価する監査」から、「未来を創るための戦略的な経営活動」へと進化するのです。

経営層への説明の仕方

どれだけ優れた分析を行っても、その価値が経営層に伝わらなければ、次の投資や改善活動にはつながりません。ここでは、データに基づいた説得力のあるコミュニケーション戦略を解説します。

数字+ストーリーで訴求

経営層を動かすのは、単なる数字の羅列ではありません。その数字がビジネスにどのようなインパクトをもたらすのか、という説得力のある「物語」です。

ROIを報告する際は、「ROIストーリーテリング」という技術が非常に有効です。 例えば、算出したROIの数値を提示するだけでなく、それが現場でどのように達成されたのかを具体的に語ります。

「在庫コストを年間3,000万円削減できました。これは、SAPによる需要予測の精度向上で実現したものです。現場からは『以前は勘に頼っていた発注業務に自信が持てるようになり、欠品のリスクを恐れて過剰に在庫を持つ必要がなくなった』という声が上がっています」

このように、定量的な成果(数字)に、現場の定性的な変化(ストーリー)を添えることで、報告の説得力は格段に増します。特に、MIA社が在庫を30%削減し収益を20%増加させた事例のように、他社の成功事例をベンチマークとして示すことも有効です。(出典:Acuity Consulting Group

成果が出ない領域を可視化し、改善提案へつなげる

ROI報告は、うまくいっていることだけを報告する場ではありません。正直に課題を共有し、それを解決するための具体的な改善提案につなげることで、経営層からの信頼を獲得し、継続的なサポートを引き出すことができます。

「受注処理のサイクルタイム短縮という目標については、まだ目標値に達していません。原因を分析したところ、特定の部門でのシステム活用率が低いことがわかりました。つきましては、追加のトレーニングと業務プロセスの見直しを実施したく、ご承認をお願いします」

このように、成果が出ていない領域を隠さずに可視化し、データに基づいた改善策をセットで提案する姿勢は、プロジェクトチームの主体性と問題解決能力を示すことにつながります。これにより、経営層はSAP投資を「一回きりのコスト」ではなく、「継続的に価値を生み出すための生きた資産」として認識してくれるようになるでしょう。

まとめ

SAPへの投資は、多くの企業にとって極めて大きな決断です。しかし、その効果が見えにくいという理由で、価値を十分に引き出せていないケースが後を絶ちません。

本記事で解説したように、SAPのROIは決して測定不可能なものではありません。

その背景にある「現場と経営の認識のズレ」を理解し、定量的・定性的な両面から価値を評価するフレームワークを持つこと。そして何より、プロジェクト計画段階から明確なKPIを設定し、導入後もダッシュボードなどを活用して継続的にモニタリングする仕組みを構築すること。これらを通じて、SAP投資は初めて「成果」へと変わります。

そして、その成果を「数字+ストーリー」で経営層に伝え、課題をも改善の機会として提案していくことで、ROIは一度きりの評価指標ではなく、企業の成長を牽引し続ける「磨き込むべき指標」となるのです。この記事が、あなたの会社のSAP投資を真の成功に導くための一助となれば幸いです。

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