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W H I T E P A P E R
2 0 2 6 年8 月 Tier2-3を 可視化する リスクの束で絞り込み、 有事に動ける調達体制を作る Mapping Tier 2 and Tier 3 Suppliers: Bundled Risk-Based Focus and Building a Resilient Procurement System
P U B L I S H E D B Y
taiziii Research Manufacturing DX Desk
© 2026 taiziii Research | Confidential
本書の位置付け
本書は、製造業のDX担当者(事業部のDX推進・調達・SCM・経営企画部門の部長・課長クラス)を読者 に想定した、Tier2-3可視化に関する実務レポートである。「サプライチェーンを見える化しましょう」 という掛け声ではなく、どのデータを集め、どうサプライヤーマップを作り、どこにリスクが集中してい るかを評価し、どう代替体制を備えるかという技術的・実務的な具体に踏み込む。
過去15年、サプライチェーンは絶え間なく揺さぶられてきた。震災、コロナ禍と半導体不足、ルネサス 火災、サイバー攻撃、地政学の緊張 ―ショックの形は変わっても、製造業に共通する弱点が露呈してき た。Tier1までは見えているが、その先のTier2・Tier3以降はブラックボックスで、上流のどこかが止ま ったときに何が起きるのか分からないという弱点である(各ショックの詳細は第1章)。
本書が一貫して主張するのは、Tier2-3可視化の成否は「全サプライヤーを完璧に把握すること」ではな く「リスクの高い部素材に絞ってデータ収集の仕組みを作り、有事に動ける代替調達体制まで設計するこ と」で決まるという点である。完璧な地図はサプライヤー数が膨大でコストも見合わず、まず破綻する。
代わりに、地政学・資材不足・与信などのリスクが重なる「リスクの束」の部素材に絞って深く把握し、 有事に代替へ動ける体制を整える ―これが現実解になる。本書は、その技術アーキテクチャと運用の判 断を扱う。
本書は経済産業省「自動車サプライチェーンの強靱化に向けた取組」(2022年7月)等の公開情報および一般的な実装知見 に基づく。事例の数値や効果は対象・体制により大きく変動するため、絶対値ではなく相対的な傾向として参照された い。
目次
1 なぜいまTier2-3可視化なのか 震災、コロナ、半導体不足、地政学。絶え間ないSCショックの15年 2 サプライチェーンの構造 ― ピラミッド型とダイアモンド型 Tier1までは見えても、Tier2-3が見えないのはなぜか 3 可視化の技術スタック データ収集→サプライヤーマップ構築→リスク評価→対策の実装 4 「全部見る」の罠 ―「リスクの束」で絞り込む 開示インセンティブとコストの限界、KPIとしての把握率と集中度 5 業界横断のデータ連携 ― Catena-X・Ouranos・G7 一社で抱えず、業界・国際の枠組みで見える化を共有する 6 先進事例 ― トヨタRESCUEシステム 震災から構築し、有事の対応時間を「3週間→1日」に圧縮した 7 導入ロードマップと落とし穴 重要部素材から始める順序、定着のコツ、つまずき
© 2026 taiziii Research | Confidential
エグゼクティブ・サマリー
5つのキーメッセージ Tier2-3可視化の成否は、全サプライヤーを完璧に把握することではなく、リスクの高い部素材に絞り、 有事に動ける備えを設計することで決まる。本書の要点を5つにまとめる。
1 サプライチェーンは絶え間なく揺さぶられている。Tier2-3の見えなさが共通の弱点である 東日本大震災、熊本地震、コロナ禍、半導体不足、ルネサス火災、サイバー攻撃、地政学リスク。
過去15年だけでも、ショックは絶え間なく続いてきた。形は変わっても、製造業の現場に共通する 弱点は変わらない。Tier1までは見えているが、その先のTier2・Tier3以降がブラックボックスで、 有事に何が起きるか分からないという弱点である。
2 「ピラミッド型」と思い込んだ裏に「ダイアモンド型」が潜んでいる 自動車のサプライチェーンは長くピラミッド型(上流ほど多数に分散)と理解されてきた。しかし 車載半導体や希少素材では、Tier2以降にごく少数のサプライヤーへ依存が集中するダイアモンド 型の構造が顕在化している。一社の停止が全体に波及する脆弱性をはらむのに、当のOEMから見 えていない。だからTier2-3の可視化が必要になる。
3 技術の核は、データ収集→マップ構築→リスク可視化→対策の実装の一連の流れ サプライヤー調査票や第三者DBで取引情報を集め、Tier1→2→3の連鎖をマップとして描き、災 害・地政学・与信・依存度集中といったリスクを重ね合わせ、代替先確保や在庫戦略といった具 体策を実装する。個別ツールよりも、この流れを途切れなく回せる仕組みを作れるかが成否を分け る。
4 「全部見る」の罠を避け、「リスクの束」が集まる部素材に絞り込む 全サプライヤーを完璧に把握しようとすると、サプライヤー数は何千社にも膨張し、開示インセン ティブのない先で頓挫し、更新コストが見合わなくなる。代わりに、地政学リスク・資材不足・与 信リスクなどが重なる「リスクの束」が集中する部素材に絞って深く把握する。把握率やHHI(集 中度)をKPIで管理することで、経営管理に載せられる。
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5 一社で抱え込まず、業界・国際の枠組みに乗ることが現実解になる Tier2-3を一社で把握しようとするには限界がある。欧州自動車業界のCatena-X、経済産業省主導 のOuranos Ecosystem、G7の「強靱で信頼性のあるサプライチェーン原則」(2023年広島)な ど、業界横断・国際枠組みでデータを共有する流れが進む。自社内で完結させず、これらに乗るこ とが、見える化のコストを下げる現実解になる。
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01 なぜいまTier2-3可視
化なのか 震災、コロナ、半導体不足、地政学。絶え間ない SCショックの15年
K E Y F I N D I N G S
過去15年、サプライチェーンを揺さぶるショックは絶え間なく続いている 2011年東日本大震災、コロナ禍と半導体不足、ルネサス火災、小島プレス事件、地政学緊張 ―形 は変われど構造は同じ ショックの形が変わっても、Tier2-3が見えていないという共通の弱点が露呈してきた CSRD・EUDR・CBAMといった規制要請も、サプライチェーンの可視化と説明責任を企業に求める 方向に動いている
1.1 15年で見えてきたショックの常態化
サプライチェーンが揺さぶられるイベントは、いまや想定外ではなく常態である。過去15年だけでも、 絶え間なくショックが続いてきた。
出所:各種報道および経済産業省「自動車サプライチェーンの強靱化に向けた取組」(2022年7月)等に基づき taiziii Research 作成 2011年の東日本大震災では、トヨタは仕入先の被災により約500品目の部品調達の手当てに奔走し、国内 の生産正常化までに4ヶ月を要した。2016年の熊本地震、2020年からのコロナ禍と世界規模の半導体不 足、2021年の福島沖地震とルネサス火災 ―いずれも自動車業界の生産に重大な影響を及ぼした。2022年 には小島プレスへのサイバー攻撃でトヨタの国内全工場が一時停止に追い込まれ、Tier1経由のサイバー リスクが現実化した。さらに近年は地政学緊張による輸出規制や紅海危機での物流途絶が、地理的なリス ク要因として加わっている。
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1.2 形は変われど、構造は同じ
これらのショックは、災害、感染症、サイバー、地政学と表面の形はまったく異なる。しかし、製造業の 現場が直面した構造は驚くほど共通している。有事の瞬間に「うちはどの部素材で、どこの誰に、どれだ け依存しているのか」が見えない、という構造である。Tier1までは取引データで把握できる。しかし Tier2、Tier3以降は、Tier1サプライヤーが情報を持っていても、機密性や競合関係を理由に開示されない ことが多い。OEMから見ると、上流が完全にブラックボックスになっている。
ここに、もう一つの追い風が加わっている。規制要請である。欧州のCSRD(企業サステナビリティ報告 指令)、EUDR(森林破壊防止規則)、CBAM(炭素国境調整メカニズム)など、近年の国際規制はいず れもサプライチェーンの可視化と説明責任を企業に求めている。経済産業省の調査でも、人権デューデリ ジェンスを実施する企業は約5割に達したが、間接仕入先まで実施できている企業は25%程度にとどま る。Tier2-3可視化は、リスク対応であると同時に、規制対応の基盤としても求められるようになってい る。
本書の立場:見えないSCは管理できない 見えないものは管理できない。これは品質管理でも在庫管理でも変わらない原則であり、サプライチェ ーンも例外ではない。ただし、見える化はゴールではない。有事に動けるための備えこそがゴールであ る。本書はこの順序で論を進める。
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02 サプライチェーンの構造 ― ピラミ
ッド型とダイアモンド型 Tier1までは見えても、Tier2-3 が見えないのはなぜか
K E Y F I N D I N G S
サプライチェーンの構造には、上流ほど分散するピラミッド型と、特定の上流に集中するダイアモ ンド型がある 長く想定されてきたピラミッド型では、一社の被災でも代替が利きやすいとされてきた しかし車載半導体や希少素材では、Tier2以降に集中するダイアモンド型の構造が顕在化している OEMからはピラミッド型に見えていても、要所にダイアモンド型が潜んでいる ―だから可視化が要 る
2.1 2つのSC構造を区別する
サプライチェーンの構造を考えるとき、長く意識されてきたのがピラミッド型である。OEM(完成品メー カー)を頂点に、Tier1、Tier2、Tier3...と下層ほど多数のサプライヤーに分散する構造で、自動車産業の サプライチェーンの典型像とされてきた。この構造では、上流のサプライヤー数が多いため、一社が被 災・障害を起こしても他社で代替が利きやすい、と想定される。
しかし近年、特に車載半導体や一部の希少素材で、まったく違う構造が顕在化している。ダイアモンド型 と呼ばれるものである。経済産業省の「自動車サプライチェーンの強靱化に向けた取組」(2022年7月) でも、この概念が明示されている。
出所:経済産業省「自動車サプライチェーンの強靱化に向けた取組」(2022年7月、車載用半導体サプライチェーン検討WG中間報告)に 基づき taiziii Research 作成
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2.2 ダイアモンド型が脆弱性を生む
ダイアモンド型は、上流のどこかに「絞り込み」がある構造である。Tier2以降に、ごく少数のサプライ ヤーへ依存が集中している。一社の停止が、複数の下流企業を経由してOEMの生産まで波及する脆弱性 をはらむ。「ピラミッド型と思い込んでいたら、要所にダイアモンド型が潜んでいた」というのが、近年 のショックで露呈した実態である。車載半導体の例が分かりやすい。OEMから見るとTier1からはモジュ ールが供給されているが、その先には特定の半導体メーカーへの集中があり、さらにその上流にはウェハ ー、設計IP、製造装置と、いくつもの集中ポイントが存在する。
2.3 なぜTier2以降が見えないのか
では、なぜTier2以降がブラックボックスになるのか。理由は単純ではない。第一に、Tier1サプライヤー 自身が、自社のTier2(つまりOEMから見たTier2)の情報を企業機密として扱う。原価構造や調達先は 競争力の源泉であり、上位の顧客にも開示したくないのが本音である。第二に、Tier1が把握しているの はTier2までであり、Tier3以降はTier2自身が情報を持っているため、Tier1経由でも把握できない。経済 産業省レポートも、「ティア1が把握しているティア2までの情報であり、ティア2から更に情報提供が行 われない限りは、ティア3以降の上流のサプライチェーン情報は把握できない」と明記している。OEM側 の意思だけで見える化はできない、という構造の問題である。
第三に、海外拠点の情報は更に取りにくい。地理的にも法的にも距離があり、Tier1経由の情報提供も限 定的になりがちである。Tier2-3可視化は、技術論だけでなく、関係性、契約、規制、信頼の積み重ねに 左右される領域でもある。これが本書で繰り返し触れる「全部見るのは難しい」前提につながる。
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03 可視化の技術スタック
データ収集→マップ構築→リスク評価→対策の実装
K E Y F I N D I N G S
Tier2-3可視化は、データ収集→サプライヤーマップ構築→リスク可視化→対策の実装の一連で実装 する データ収集の手段は、サプライヤー調査票、自社の取引データ、第三者DBの3つを組み合わせる サプライヤーマップは、グラフDBで管理することで連鎖関係を網のように扱える SAP・Oracle SCMなど商用ツールから、グラフ系専門ツールまで、選択肢は広がっている
3.1 4つの段階で捉える
Tier2-3可視化を、思いつきの調査ではなく再現性のある仕組みにするには、一連の技術スタックとして 設計する必要がある。
出所:taiziii Research 作成
3.2 データ収集 ― 3つの手段の組み合わせ
すべての起点はデータ収集である。手段は大きく3つある。第一にサプライヤー調査票。Tier1経由で Tier2、可能ならTier3以降の取引先情報、拠点、依存度などを直接尋ねる。地道だが基礎データになる。
第二に自社の取引データ。自社のERPや調達システムに蓄積された購買・発注・出荷データから、Tier1 までは精度高く把握できる。第三に第三者DB。企業情報DBやSCマッピング専門のサービスを使うと、自 社では把握できない取引関係や財務情報を補える。1つの手段だけでは限界があり、3つを組み合わせて 多層的にデータを集めるのが現実的である。
© 2026 taiziii Research | Confidential
3.3 サプライヤーマップとリスク評価
集めたデータから、サプライヤーマップを構築する。OEM→Tier1→Tier2→Tier3...の連鎖関係を、点 (企業)と線(取引)で表現する。データ構造としては、リレーショナルDBよりもグラフDBが適してい る。サプライチェーンは本質的に網の構造をしており、特定企業から「上流に何社、下流に何社、何階層 先まで」といった経路探索が効率的に行える。
マップが描けたら、その上にリスクの情報を重ね合わせる。地震・台風・洪水などの自然災害リスク、地 政学リスク、サプライヤーの財務(与信)リスク、そして特定国・特定社への依存度集中(後述する HHI)。これらを地図やマップに視覚的に重ねることで、「どの部素材が、どんなリスクに、どれだけ晒 されているか」が一目で見えるようになる。
ただし、ここで一つ線を引いておきたい。マップとリスクの重ね合わせが見せてくれるのは、どこに・ど んなリスクが・どれだけあるか、という強度までである。そのうち、どれを先に手当てし、どこまでは許 容するか ―その線引きはマップには載らない。可視化は、判断の材料を揃える工程であって、判断その ものではない。この点は、本書の最後でもう一度扱う。
3.4 対策の実装 ―見える化の先にあるもの
可視化は手段であって目的ではない。見える化の先にあるのは、有事に動ける備えである。具体的には、 代替先サプライヤーの事前評価と関係構築、戦略的な在庫の積み増し、長期契約や複数調達の見直し、 BCPの整備、サイバーセキュリティ要件の調達契約への組み込みなど。これらの「対策の実装」までを含 めて、初めてTier2-3可視化は意味を持つ。
商用ツールとしては、SAPやOracle SCM Cloudなどの大規模ERP・SCMシステムから、Resilinc、 Interos、Everstreamといったサプライチェーン可視化に特化したサービスまで、選択肢は広がってい る。中堅企業向けには低コストのソリューションも増えている。ツール選択も重要だが、より重要なのは 4つの段階を途切れなく回せる体制を作ることである。
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04 「全部見る」の罠 ― 「リス
クの束」で絞り込む 開示インセンティブとコストの限界、 KPIとしての把握率と集中度
K E Y F I N D I N G S
全サプライヤーを完璧に把握しようとすると、開示インセンティブとコストの両面で破綻する 「すべて対処する」のではなく、リスクが重なり合う「リスクの束」に絞って優先順位を付けるの が現実解 把握率(Tier1/2/3以降)と集中度(HHIなど)をKPIに設定し、経営管理のサイクルに載せる 規制要請(CSRD、EUDR、CBAM等)への説明責任も、リスク評価結果の再利用で対応できる
4.1 「全部見る」が破綻する理由
Tier2-3可視化に意気込んで取り組む企業がしばしば直面する罠がある。「全サプライヤーを完璧に把握 する」という目標である。一見、正しいゴールに見える。しかし実際にはほぼ確実に破綻する。
出所:KPMG「経営を揺るがすサプライチェーンリスクのブラックボックス化」等の考察に基づき taiziii Research 作成 破綻する理由は3つある。第一に、サプライヤー数の膨張。Tier1で数百社、Tier2で数千社、Tier3以降は 数万社規模になる業界も珍しくない。すべてを管理するのは現実的でない。第二に、開示インセンティブ の不在。前章で述べたとおり、Tier1サプライヤーには自社の上流情報を顧客に開示するインセンティブ がない。説得するコストが膨大になり、Tier2以降は事実上ほぼ進まないことが多い。第三に、更新・維 持コスト。仮に一度マップを作っても、サプライヤー構成は日々変わる。何千社の情報を最新に保つコス トは見合わないことが多い。
© 2026 taiziii Research | Confidential
4.2 「リスクの束」で絞り込む
この罠を避けるのが、「リスクの束」で絞り込む発想である。すべてに対処することを目指すのではな く、上位のリスクが重なり合うところから戦略的に取り組む。たとえば、地政学リスク、資材不足、与信 リスクが同時に作用しているような部素材は、投資対効果の高い改善対象になる。逆に、リスクが薄いと ころに労力を割いても得るものは少ない。
具体的な絞り込みの観点は、(a) 止まると業務が回らないか(事業影響度)、(b) 代替が効きにくいか(代 替性)、(c) 特定の国・地域・企業に依存しているか(集中度)、(d) サイバーや与信などの脆弱性が高い か、といった軸を組み合わせる。これらが交差する部素材から優先的に深掘りする。完璧な地図を目指 すのではなく、リスクが密な領域の精度を上げるのが本筋である。
こう書くと、「軸を並べてスコアリングすれば、優先順位は自動的に出るはずだ」と思うかもしれない。
実際にやってみると、そう単純ではない。事業影響度・代替性・集中度・脆弱性のどれをどれだけ重く見 るか ―その重み付けそのものが、ベテラン調達担当の経験則で決まっているからだ。同じスコア表を渡 しても、誰が重みを置くかで、浮かび上がる部素材は変わる。この「重み付けの読み」は、スコア表のど こにも書かれていない。データにもツールにも載らない、こうした判断を、本書では判断知と呼ぶ。
4.3 KPIで経営管理に載せる
絞り込んだ取り組みを単発で終わらせず、経営管理の一部として運用するには、KPI設定が要る。代表的 なものを2つ挙げる。
第一が把握率。Tier1、Tier2、Tier3以降の各階層で、自社が情報を把握できているサプライヤーの割合 を測る指標である。重要部材ごとに目標水準を設定し、進捗を経営層に報告する。第二が集中度 (HHI)。ハーフィンダール・ハーシュマン指数で、特定国・特定社への依存度の集中を定量化する。
HHIが高いほど集中が強く、リスクも高い。これらを定期的にダッシュボードで管理し、改善の進捗を可 視化することで、Tier2-3可視化が「やりっぱなしの一過性プロジェクト」から「経営管理の定常業務」 に変わる。
規制要請への説明責任にも転用できる 絞り込みとKPI管理の副産物として、規制要請への説明責任の基盤にもなる。CSRD、EUDR、CBAM、人 権デューデリジェンス、サイバーセキュリティ要請 ―個別対応すると重複投資になるが、その根底にあ るのはいずれも「サプライチェーンを把握し、説明できるか」という共通の要請である。一度作ったリ スク評価とKPI体系は、複数の規制対応に転用できる。守りの投資を、複数目的で回収する発想が要 る。
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05 業界横断のデータ連携 ―
Catena-X・Ouranos・G7 一社で抱えず、業界・国際の枠組み で見える化を共有する
K E Y F I N D I N G S
Tier2-3を一社で完全に把握するのは限界がある。業界横断・国際枠組みで支える流れが進む Catena-X:欧州自動車業界の協調枠組み。Tier1〜上流までデータ共有の標準を整備 Ouranos Ecosystem:経済産業省主導の日本の産業横断データ連携基盤 G7「強靱で信頼性のあるサプライチェーン原則」(2023年広島):透明性・多様性・安全性・持 続可能性・信頼性
5.1 一社の限界、業界の知恵
ここまで述べてきたとおり、Tier2-3の把握は一社の意思だけでは限界がある。Tier1サプライヤーの開示 インセンティブ、Tier2-3の情報非対称、海外拠点の取りにくさ。これらは個社の努力では超えにくい構 造的な制約である。だからこそ、近年は業界横断・国際的な枠組みでデータ連携を進める流れが加速して いる。一社で抱え込まず、業界の知恵と国際的なルールで支える発想である。
出所:各枠組みの公表情報に基づき taiziii Research 作成
5.2 Catena-X ―欧州の自動車業界連携
欧州発の代表例がCatena-Xである。BMW、Mercedes-Benz、Volkswagen、ZF、Boschといった欧州自 動車業界の主要プレイヤーが中心となり、サプライチェーン全体でデータを共有するためのオープンなデ
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ータ標準とインフラを整備している。各社がバラバラに独自のシステムを作るのではなく、共通のデータ フォーマット、APIインタフェース、信頼性の枠組みを業界で共有することで、Tier1から上流までのデー タ流通コストを大きく下げることを狙う。これにより、個別企業のTier2-3可視化の負荷も下がる。CSRD など欧州の規制対応の基盤としても活用される。
5.3 Ouranos Ecosystem ―日本の産業横断データ連携
日本では、経済産業省が主導するOuranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)が、企業や業界を横 断するデータ連携の取り組みとして進んでいる。サプライチェーン情報、トレーサビリティ、カーボンフ ットプリントなど、産業横断で必要となるデータを共通基盤で扱うことを目指す。日本の製造業のサプラ イチェーンが垂直統合的で、業界によってデータ標準が異なる現実を踏まえた、官民連携の取り組みであ る。
5.4 G7原則 ―国際的な共通言語
そして国際的な共通言語として位置づけられるのが、2023年5月のG7広島サミットで採択された「経済的 強靱性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」と「強靱で信頼性のあるサプライチェーンに関する原 則」である。①透明性、②多様性、③安全性、④持続可能性、⑤信頼性 ―この5つの柱が、信頼できるパ ートナー国との間で強靱なサプライチェーンネットワークを構築する上で不可欠な原則として確認され た。各社のリスク評価や調達戦略を組み立てるとき、この5原則は「何を守れば信頼性のあるSCといえる か」のチェックリストとして使える。
5.5 自社戦略と外部枠組みを噛み合わせる
これらの枠組みは、それ自体で個別企業のTier2-3可視化を完成させるものではない。あくまで、自社が 取り組む可視化の負荷を下げ、業界内・国際的な信頼性の言語を共有するためのインフラである。本書の 主張に当てはめると、自社の「リスクの束」絞り込みやKPI管理は引き続き各社が行うものだが、その作 業のデータ取得・標準化・共有部分を、こうした枠組みに乗せることで効率化できる。自社内で完結させ ようとせず、業界・国際の枠組みに乗ることが、これからの可視化の現実解になる。
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06 先進事例 ― トヨタ
RESCUEシステム 震災から構築し、有事の対応時間を「3週間 →1日」に圧縮した
K E Y F I N D I N G S
トヨタは2011年東日本大震災を契機に、サプライチェーンDB「RESCUEシステム」を構築 機密性の高い情報を含め、ティア2まで含めたSC全体の情報をデータベース化 数千点の部品調達先と、代替生産が可能な工場を事前に洗い出してDBに登録 震災前は約3週間要した仕入先の状況確認を、1日で完了できるように圧縮した Tier2-3可視化が実際にどう成果を生むのか。日本で最も体系的にこの取り組みを進めた1社を深く掘り下 げる。経済産業省「自動車サプライチェーンの強靱化に向けた取組」(2022年7月)にも公式に紹介さ れ、東京大学経済学研究科でも論文化された、トヨタ自動車のRESCUEシステムである。
出所:経済産業省「自動車サプライチェーンの強靱化に向けた取組」(2022年7月)、日経ビジネス、東洋経済、日本自動車会議所等の 公表情報に基づき taiziii Research 作成
6.1 2011年 ―「ジャスト・イン・タイム」が直撃を受けた
2011年3月11日の東日本大震災は、トヨタのサプライチェーンを根本から揺さぶった。仕入先が広範囲で 被災し、約500品目に及ぶ部品や素材の調達を早急に手当てする必要に迫られた。被災相手にはルネサス エレクトロニクスの車載用半導体工場も含まれていた。トヨタの代名詞ともいえるジャスト・イン・タイ ム生産方式 ―在庫を極力持たない効率的な生産管理 ―にとって、最大級の衝撃だった。状況は1995年の 阪神・淡路大震災のときより深刻で、生産が正常化するまでに国内は4ヶ月、海外は半年を要した。
© 2026 taiziii Research | Confidential
当時の現場では、Tier1の仕入先の被災状況を一社ずつ電話で確認していくところから始め、Tier2以下に 問題があると分かるまでに大きな時間を消費した。佐々木副社長(当時)は「サプライチェーンはびっく りするほど複雑。今回それをあらためて感じた」と率直に語っている。トヨタの強さを支えてきたピラミ ッド構造が、見えないTier2以降を抱えたまま脆弱性を露呈した瞬間だった。
6.2 RESCUEシステムの構築 ― 「ティア2まで」をDB化する
この経験を踏まえ、トヨタはサプライチェーンを「見える化」する社内システム「RESCUE(レスキュ ー)」の構築に着手した。経済産業省レポートはこう記述している。「トヨタは2011年の東日本大震災 のサプライチェーンショックの発生を踏まえ、サプライチェーンDB『RESCUEシステム』を構築。機密 性の高い情報を含め、ティア2も含めたSC全体の情報をDB化した」。
具体的な作り込みは大きく2点にまとめられる。第一に、ティア2まで含めたSC全体の情報のDB化。
Tier1だけでなくTier2の仕入先、その所在地、生産能力、依存度などの情報を機密性の高いものまで含め て一元管理する。第二に、数千点の部品調達先と代替生産が可能な工場の事前洗い出し。各部品につい て、平時の調達先だけでなく「もし止まったら、代わりにどこで作れるか」を予め評価・登録しておく。
有事の代替手段が、紙の連絡網ではなくDBになっている。
6.3 有事の対応時間を「3週間→1日」に圧縮
RESCUEシステムが効いた具体的な成果が、対応時間の劇的な圧縮である。震災前は約3週間を要した 「部品調達に関わる仕入先の状況確認」が、わずか1日で完了するようになったと、日本自動車会議所も 伝えている。有事の際にすぐに生産に支障が出る品目を特定し、別の調達先への代替生産を迅速に実施で きる。
2016年の熊本地震では、まさにこのRESCUEが機能した。「東日本大震災以前だったら、このタイミング で調達が滞りそうな部品を特定し、代替調達先の検討に入ることはできなかっただろう。今回はすでに検 討の段階に入っている」というトヨタ広報のコメントが残っている。その後、2020年からのコロナ禍と 半導体不足、2021年福島沖地震でも、RESCUEは継続的に機能してきた。トヨタの近健太執行役員は、 「これまで1次サプライヤーとの関係が中心だったが、2次サプライヤー以下とのコミュニケーションを 広げた結果、原価低減の活動にも拍車がかかった」とも語っている。Tier2-3可視化は、有事のBCP価値 だけでなく、平時の原価管理にも転用できることを示す好例である。
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優れている点:「ティア2まで」と現実的に区切ったこと RESCUEシステムの本質は、「Tier2まで」と明確に区切ったことにある。Tier3、4と無限に深掘りすれ ば理想だが、コストと開示インセンティブの限界を踏まえて、現実的にカバー可能な範囲(Tier2)でDB 化を完成させた。これは本書第4章の「全部見る罠を避け、リスクの束で絞る」発想と完全に一致する。
経済産業省レポートも同じレポート内で「ティア1が把握しているティア2までの情報であり、ティア2か ら更に情報提供が行われない限りは、ティア3以降の上流のサプライチェーン情報は把握できない」と限 界を認めており、トヨタの取り組みもこの構造的制約の中で最大の効果を出す設計になっている。完璧 でない代わりに、機能する仕組みが作られた。
もう一点、見落とせないことがある。RESCUEがDB化したのは「どこが調達先か」「代わりにどこで作 れるか」という事実である。だが有事に「まず、どの代替先から動かすか」を決めるのは、いまも人の 判断だ。RESCUEはその判断を消したのではない。判断に要る材料を、3週間かけて集めていた状態から 1日で揃えられるようにした ―いわば判断の高速化装置である。
6.4 この事例から学べること
RESCUEの取り組みは、本書の論点を実地で裏づけている。第一に、有事の経験をDB化に転換したこ と。震災というショックを単なる被害として消費せず、二度と同じ思いをしないための知識資産に変え た。第二に、「ティア2まで」と現実的に区切ったこと。理想を追わず、構造的に到達可能な範囲で完成 させ、その代わり代替工場の洗い出しまで踏み込んだ。第三に、有事のBCPと平時の原価管理を両立させ たこと。守りの投資が攻めの活動にも転用された。次章では、これを自社で進めるための具体的な道筋 を示す。
© 2026 taiziii Research | Confidential
07 導入ロードマップと落と し穴
重要部素材から始める順序、定着のコツ、つ まずき
K E Y F I N D I N G S
導入は「対象部素材の選定→データ収集体制→リスク評価・可視化→代替体制の構築」の4段階で 進める 全サプライヤー一斉ではなく、止まると本当に困る重要部素材から段階的に深掘りする 定着の鍵は、把握率・集中度のKPIで経営管理サイクルに載せること 典型的なつまずきは、全体カバー主義、データの陳腐化、可視化止まりで対策が伴わない、業界枠 組みの軽視 可視化を整えても、どれを「束」と見なし有事にどこから動かすかは最後は調達担当の判断。そこ に残る判断知の継承までが射程
7.1 4段階のロードマップ
Tier2-3可視化は、一斉展開ではなく、対象を絞って段階的に積み上げる。
出所:taiziii Research 作成 Phase 1:対象部素材の選定。「リスクの束」が集まる重要部素材を絞り込む。事業影響度、代替性、集 中度、脆弱性の軸でスコアリングし、止まると本当に困る部素材を抽出する。Phase 2:データ収集体 制。サプライヤー調査票、自社の取引データ、第三者DBを組み合わせて取得体制を作る。把握率をKPIと して設定する。Phase 3:リスク評価・可視化。サプライヤーマップを構築し、災害・地政学・与信など のリスクを重ね合わせる。集中度(HHI)を算出する。Phase 4:代替体制の構築。代替先サプライヤー の事前評価、戦略的な在庫の見直し、BCPと契約の整備に踏み込む。
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7.2 定着のコツ ―「経営管理サイクルに載せる」
Tier2-3可視化が成果を生むかどうかは、それを経営管理サイクルに載せられるかにかかっている。プロ ジェクトとして実施し、報告書を作って終わり、ではすぐに陳腐化する。サプライヤー構成は日々変わ り、地政学情勢も動く。把握率と集中度(HHI)をダッシュボード化し、定期的に経営会議でレビューす る。可視化結果は、調達契約の見直し、在庫戦略の調整、BCPの更新といった具体的な意思決定にダイレ クトに結びつけることが要る。これは、計測・予測を業務に組み込む製造業DXの一般原則と同じであ る。
典型的な4つのつまずき ① 全体カバー主義:全サプライヤーを完璧に把握しようとして、コストと開示インセンティブの両面で 頓挫する。リスクの束で絞る(第4章)。② データの陳腐化:一度作ったマップを更新せず、半年後に は実態とずれていく。KPIで定期更新を業務化する。③ 可視化止まり:見える化したことに満足し、代 替先の確保や在庫戦略の見直しに踏み込まない。可視化は目的でなく出発点である(第3章)。④ 業界 枠組みの軽視:自社内ですべて完結させようとし、Catena-XやOuranosなどの外部枠組みを使わずコス トが膨らむ(第5章)。
7.3 まとめ ― 完璧な地図でなく、機能する仕組み
本書を通じた主張は一貫している。Tier2-3可視化の成否は、全サプライヤーを完璧に把握することでは なく、(1) リスクの束が集まる重要部素材に絞ってデータ収集の仕組みを作ること、(2) 把握率と集中度の KPIで経営管理サイクルに載せること、そして(3) 可視化の先で代替体制まで設計することという、技術以 前の3点で決まる。完璧な地図を目指すと破綻する。代わりに、機能する仕組みを作る。
着手にあたっては、全社一斉ではなく、止まると最も困る1部素材を選んで小さく始めることを推奨す る。明日からの一歩は、自社にとって「もしこれが止まったら最も困る」部素材を3〜5つ書き出し、そ のTier2までの取引関係を地道に追ってみることである。完璧でなくていい。リスクの密な領域から始め ることが、機能する仕組みへの最短距離になる。
そして、ここまで整えてもなお、最後に人へ残るものがある。把握率を上げ、HHIを下げ、マップを最新 に保っても、数あるリスクのどれを自社の「束」と見なすか、有事にどの代替先から先に動かすかは、ツ ールにもデータにも載らない。それはベテラン調達担当が、事業影響と代替可能性と土地勘を天秤にか けて下す判断であり、その人が退けば失われる。可視化とは、この判断を消すための作業ではなく、判断 を速く、確かに下すために材料を揃える工程だ。だからこそ、最後に問われるのは「どうマップを描く か」ではなく、この判断をどう引き出し、どう次の担当へ継ぐか、である。
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taiziii が提供する判断力の継承サービス SkillRelay(スキルリレー)は、サプライヤーマップやリスク 評価で見える化した、その先を扱います。「数あるリスクのどれを自社の"束"と見なすか」「有事にど の代替先から動かすか」というベテラン調達担当の判断の道筋を、なぜそう判断したのかという理由ご とAIで引き出し、帰属を保ったまま構造化し、組織の知見として継承します。判断を平均したり、一本 の正解に統合したりはしません。AIは判断を代行せず、引き出し、分類し、問い返し、継承を助ける裏 方に徹します。
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