技術ブログ SAP担当者不在のリスクを回避!属人化を防ぎ、自走する組織を作る人材育成・体制構築術
SAP担当者不在のリスクを回避!属人化を防ぎ、自走する組織を作る人材育成・体制構築術

SAP担当者不在のリスクを回避!属人化を防ぎ、自走する組織を作る人材育成・体制構築術

「長年SAPを担当していたベテランが退職したら、途端に業務が回らなくなった…」
「ちょっとした改修も、すべて外部ベンダーに頼らないと何もできない…」

SAPを導入・運用している多くの企業で、このような「人」に関する深刻な悩みがあとを絶ちません。SAPは企業の経営を支える強力なシステムですが、その性能を最大限に引き出せるかどうかは、システムを運用する「人材」と「組織体制」にかかっていると言っても過言ではありません。

もしあなたが、担当者への過度な依存や、高止まりするベンダーコストに課題を感じているなら、この記事がその解決の一助となるかもしれません。人材育成や体制づくりを後回しにすると、ベンダーへの依存から抜け出せず、社内にノウハウが蓄積されないままコストだけが膨らんでいくという負のスパイラルに陥りかねません。

この記事では、SAPを長期的に、そして自律的に使いこなすための人材育成と組織体制づくりに焦点を当てます。具体的な研修の仕組みから、理想的な組織のあり方、そして内製化と外部委託の最適なバランスまで、実践的なステップを解説します。

この記事を読み終える頃には、属人化のリスクを回避し、持続可能なSAP運用を実現するための明確なロードマップをご理解いただけることでしょう。

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SAP運用で「人」が課題になる理由

SAPプロジェクトが成功裏に稼働した後、多くの企業が直面するのが「人」に起因する運用フェーズの課題です。技術的な問題よりも、むしろ組織的な問題の方が根深いケースが少なくありません。

「担当者依存」でブラックボックス化

特定の「スーパーマン」的な担当者に業務が集中してしまうことは、一見効率的に見えて、実は組織にとって大きなリスクをはらんでいます。その人がいなくなれば、システム全体が機能不全に陥る危険性があるからです。

「この設定の意味は、前任の〇〇さんしか知らないんですよ…」

「マニュアルなんてない。あの人の頭の中に全部入っているから」

このようなセリフに心当たりはないでしょうか。SAPの運用業務は複雑なため、特定の経験豊富な担当者に知識やノウハウが偏りがちです。この「属人化」が進行すると、業務プロセスは完全にブラックボックス化してしまいます。ベテラン従業員の退職や異動が発生した際に、業務ノウハウが失われることは、事業継続における深刻なリスクとなります。

ベンダー依存による高コスト化

社内にSAPを扱える人材が不足すると、必然的に外部の導入ベンダーへの依存度が高まります。その結果、運用・保守コストが高騰し、企業の収益を圧迫する要因となり得ます。

特に日本企業に多いのが、自社の業務プロセスに合わせるためにSAPを過剰にカスタマイズ(アドオン開発)するケースです。ある調査では、27%もの日本企業がSAPの5割以上をカスタマイズしているという結果が出ています。(出典:Biz LIZA

「自社のやり方は変えられないから、システムの方を合わせてくれ」

こうした要求が、結果として独自仕様の複雑なシステムを生み出し、外部ベンダーでなければメンテナンスできない状況を作り出します。その結果、運用保守コストが増大するだけでなく、SAP導入プロジェクトの60%が予算を超過し、3割が期待したROIを達成できていないという厳しい現実につながっているのです。

SAP人材育成のステップ

ベンダー依存から脱却し、自社でSAPをコントロールするためには、計画的かつ継続的な人材育成が不可欠です。ここでは、そのための具体的なステップをご紹介します。

基礎研修(SAP認定資格・社内トレーニング)

まずは、組織全体のSAPに関する知識レベルの底上げが重要です。公式の認定資格取得支援と、自社の業務に即した社内トレーニングを組み合わせることで、効果的にスキルアップを図ります。

SAP認定コンサルタント資格は、個人の専門知識を客観的に証明するグローバル標準の資格です。従業員のキャリアパスに合わせて、基礎レベルから専門レベルまで段階的な取得を支援することは、個人のモチベーション向上と知識の体系的な学習につながります。特に、2024年度から資格に1年の有効期限が設けられたことは、SAP人材には常に最新の知識が求められることを意味しており、企業側にも継続的な学習機会の提供が求められます。(出典:Sint

しかし、資格の知識だけでは実務に対応できません。導入時の研修が不十分だったり、一部の社員しかシステムを使いこなせなかったりすることが、SAP導入失敗の典型的な原因として挙げられています。導入後も、自社の業務プロセスに合わせた継続的な社内トレーニングやオンボーディングを実施し、全社的な定着を促すことが極めて重要です。

OJTと現場での知識共有

座学で得た知識を本物のスキルへと昇華させるには、実際の業務を通じた実践的なトレーニング(OJT)が欠かせません。最新のデジタルツールを活用することで、OJTの効果を最大化できます。

ここで有効なのが、DAP(デジタル・アダプション・プラットフォーム)と呼ばれるツールです。DAPは、SAPの操作画面上にリアルタイムで操作方法のナビゲーションを表示してくれるため、利用者はマニュアルを探し回ることなく、直感的に正しい操作を学べます。これにより、ITリテラシーの個人差を埋め、OJTにおける指導者の負担を軽減しながら、業務の属人化を防ぐことができます。

定期的な勉強会・コミュニティ活用

個人の努力だけに頼らず、組織全体で知識を共有し、高め合う文化を醸成することが、持続的な人材育成の鍵となります。

SAPのBTP(Business Technology Platform)推進に成功している企業には、専任チームが技術を習得し、社内にナレッジを共有しているという共通点があります。

社内SNSやWikiなどを活用して、部門の垣根を越えた勉強会を開催したり、トラブル解決のノウハウを共有するプラットフォームを設けたりすることで、組織全体の対応力を高めることが可能です。

また、社外の公式SAPコミュニティなどを活用し、常に最新の情報をキャッチアップする文化を奨励することも、組織の知識レベルを底上げする上で有効です。

組織体制の最適化

優れた人材を育成しても、その能力を最大限に発揮できる組織体制がなければ意味がありません。自社の状況に合わせて、最適な運用体制を構築することが求められます。

SAP専任チーム vs 分散型運用チーム

SAPの運用体制には、専門家を集約する「専任チーム(CoE)」モデルと、各事業部門が運用を担う「分散型」モデルがあります。それぞれにメリット・デメリットがあり、自社の戦略に合った形を選択する必要があります。

SAP専任チーム(CoE: Center of Excellence)モデルは、社内のSAPに関する高度な専門知識を持つ人材を一箇所に集約した組織です。(出典:Resulting IT)このモデルの最大のメリットは、ノウハウが組織に蓄積され、全社最適の視点からガバナンスを効かせられる点です。成熟したCoEは、日々の運用保守を効率化するだけでなく、そのリソースをDX推進など、より付加価値の高い戦略的な活動に振り向けることができます。

一方、分散型運用モデルは、各事業部門や子会社がそれぞれSAPの運用を担う形です。現場のニーズに迅速かつ柔軟に対応できるメリットがありますが、ノウハウが各部門に分散し、全社的なナレッジ共有が進みにくいという課題があります。

評価軸 CoE(専任チーム)モデル 分散型モデル
ノウハウ蓄積 ◎ 組織内にノウハウが集約・蓄積される △ 各部門に分散し、属人化しやすい
柔軟性 △ 標準化が進むため、個別対応はしにくい ◎ 現場のニーズに柔軟に対応可能
DX推進力 ◎ 戦略的なDXイニシアティブを主導できる 〇 部門ごとの個別最適になりやすい
人材流動性 〇 チームで知識共有するため、個人の影響は少ない × 担当者の異動・退職リスクが高い

権限設計と業務フローの明確化

どの組織体制を選択するにせよ、誰が、何を、どこまでできるのかという権限を明確に設計し、業務フローを標準化・可視化することが、混乱を防ぎ、スムーズな運用を実現するために不可欠です。

特に内部統制の観点から、役割に応じた適切な権限設定は非常に重要です。また、業務フローを文書化し、ナレッジマネジメントツールなどで一元管理することで、業務の属人化を防ぎ、新任者でもスムーズに業務を引き継げるようになります。

内製化と外注のバランス

「すべてを自社でやる」か「すべてをベンダーに任せる」かという二者択一ではありません。自社のコアとなる部分は内製化しつつ、専門性の高い領域は外部の力を戦略的に活用するハイブリッドモデルが現実的な選択肢となります。

内製化の最大のメリットは「ノウハウの蓄積」と「コスト削減」ですが、「人材の獲得・育成」という高いハードルが伴います。ベンダーへの過度な依存から脱却するためには、段階的な内製化計画を立て、自社がプロジェクトの主導権を握り続けることが重要です。

成功企業に学ぶ人材・組織戦略

理論だけでなく、実際に人材・組織戦略によってSAP導入を成功させた企業の事例から、具体的なヒントを学びましょう。

ベンダーと協業しつつ内製化を進めた事例

成功企業は、SAPの「ベストプラクティス」を積極的に受け入れ、業務プロセスそのものを変革することで、ベンダー依存からの脱却と内製化への道を切り拓いています。

小木曽工業株式会社は、「パッケージにあわせて業務を徹底的に変える」という強い方針のもと、過剰なカスタマイズを徹底的に排除しました。これにより、わずか10ヶ月という短期間での導入を実現し、業務の標準化とデータに基づいた経営判断の基盤を構築しました。

これは、システムを自社の業務に合わせるのではなく、グローバル標準の業務プロセスに自社を合わせるという、SAP導入本来の思想を実践した好例です。

異動に対応できるナレッジマネジメント

人材の流動性が高まる現代において、個人のスキルだけに依存しない、組織としての対応力をいかに構築するかが企業の持続可能性を左右します。

日本写真印刷株式会社は、SAPのグローバルテンプレートを活用することで、海外9拠点へのシステム展開と、それを支える運用人材の育成を同時に実現しました。共通のテンプレートを用いることで、ローカライズを最小限に抑え、ナレッジの共有と効率的な人材育成を可能にしています。

また、日々の運用で得られた知見やトラブルシューティングの事例を、社内Wikiなどのナレッジマネジメントツールで形式知化し、組織の知的資産として蓄積していくことが、担当者の異動や退職といったリスクへの最も有効な備えとなります。

まとめ

これまで見てきたように、SAP導入の成否、そしてその投資価値を長期的に最大化できるかどうかは、システムそのものの機能以上に、「人と体制」によって大きく左右されます。

「担当者依存」による業務のブラックボックス化や、「ベンダー依存」によるコストの高騰といった課題は、決して避けて通れない問題です。これらのリスクを回避するためには、計画的な人材育成と、自社の戦略に合った組織体制の構築が不可欠です。

SAPは一度導入すれば終わりではありません。ビジネス環境の変化に対応し、その価値を発揮し続けるためには、それを使いこなす人材と組織もまた、継続的に進化していく必要があります。この記事で紹介したステップや考え方が、貴社のSAP運用を持続可能なものへと変革させるための一助となることを願っています。

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